・・・ 反動団体の仕業であるのはすぐ感じられた。味噌汁をついで呉れている間にこちらから訊いた。「どこで?」「官邸。……軍人だって」「ふーむ」 犬養暗殺のニュースは、私に重く、暗く、鋭い情勢を感じさせた。閃光のように、刑務所や警察の・・・ 宮本百合子 「刻々」
・・・ 尤も、昔からロシア人は、日本人のように三度三度米の飯をたべたり、味噌汁をのんだりはしない習慣だ。工場労働者でも、農民でも、スターリンだっても、朝はフーフーふくぐらい熱い紅茶にパンにバタをくっつけたのぐらいで、勤めに出てしまう。 昼・・・ 宮本百合子 「ソヴェト労働者の解放された生活」
・・・ 良子嬢が、浅草のカフェー・ジェーエルで、味噌汁をかけた飯を立ち食いしつつも朗らかに附近のあんちゃん連にサービスし人気の焦点にあったという新聞記事をよんで、一般の人々はどんな感想を抱いたであろうか。 所謂名流家庭の親たちの中では駭然・・・ 宮本百合子 「花のたより」
・・・ 木村は根芋の這入っている味噌汁で朝飯を食った。 食ってしまって、茶を一杯飲むと、背中に汗がにじむ。やはり夏は夏だと、木村は思った。 木村は洋服に着換えて、封を切らない朝日を一つ隠しに入れて玄関に出た。そこには弁当と蝙蝠傘とが置・・・ 森鴎外 「あそび」
・・・婆あさんが味噌汁を煮ている。別当は馬の手入をしまって、蹄に油を塗って、勝手口に来た。手には飼桶を持っている。主人に会釈をして、勝手口に置いてある麦箱の蓋を開けて、麦を飼桶に入れている。石田は暫く立って見ている。「いくら食うか。」「え・・・ 森鴎外 「鶏」
出典:青空文庫