・・・「あの子なら、だいいちに、心から俺たちの味方なんだ。」 こういって、古いひのきの木と、年とったたかとは、話をしていました。 夕方になると、父親と子供とは、ひのきの木の下に、どこからか帰ってきました。子供は、木の枝で造った、胡弓を・・・ 小川未明 「あらしの前の木と鳥の会話」
・・・しかし、現在書かれている肉体描写の文学は、西鶴の好色物が武家、僧侶、貴族階級の中世思想に反抗して興った新しい町人階級の人間讃歌であった如く、封建思想が道学者的偏見を有力な味方として人間にかぶせていた偽善のヴェールをひきさく反抗のメスの文学で・・・ 織田作之助 「可能性の文学」
忘れもせぬ、其時味方は森の中を走るのであった。シュッシュッという弾丸の中を落来る小枝をかなぐりかなぐり、山査子の株を縫うように進むのであったが、弾丸は段々烈しくなって、森の前方に何やら赤いものが隠現見える。第一中隊のシード・・・ 著:ガールシンフセヴォロド・ミハイロヴィチ 訳:二葉亭四迷 「四日間」
・・・で彼は「此際いい味方が出来たものだ」斯う心の中に思いながら、彼が目下家を追い立てられているということ、今晩中に引越さないと三百が乱暴なことをするだろうが、どうかならぬものだろうかと云うようなことを、相手の同情をひくような調子で話した。「・・・ 葛西善蔵 「子をつれて」
・・・この問題でたよりにならない相手では、たのみにならない味方ということになる。この闘いは今日の場合では大概は容易ならぬ苦闘だからだ。しかしこれは協同する真心というので、必ずしも働く腕、才能をさすのではない。妻が必ず職業婦人になって、夫の収入に加・・・ 倉田百三 「愛の問題(夫婦愛)」
・・・杜氏は、自分が骨折りもしないのに、ひとかど与助の味方になっているかのようにそう云った。 与助は、一層、困惑したような顔をした。「われにも覚えがあるこっちゃろうがい!」 杜氏は無遠慮に云った。 与助は、急に胸をわく/\さした。・・・ 黒島伝治 「砂糖泥棒」
・・・責めるばかりで済むことでは無い、という思が直に※深く考え居りてか、差当りて何と為ん様子も無きに、右膳は愈々勝に乗り、「故管領殿河内の御陣にて、表裏異心のともがらの奸計に陥入り、俄に寄する数万の敵、味方は総州征伐のためのみの出先の小勢、ほ・・・ 幸田露伴 「雪たたき」
・・・殿「何だえ……御覧なさい、あの通りで……これ誰か七兵衞に浪々酌をしてやれ、膳を早く……まア/\これへ……えゝ此の御方は下谷の金田様だ、存じているか、これから御贔屓になってお屋敷へ出んければ成らん」金田「予て噂には聞いていたが未だしみ・・・ 著:三遊亭円朝 校訂:鈴木行三 「梅若七兵衞」
・・・学問は御有んなさるし、立派な御方なんだそうで御座います。御年は四十位だとか申しました。まだ御独身で。よく華族様方の御嬢様なぞにも、そういう風で、年をとって御了いなさる方が御有んなさいますそうですよ……それからあの人が、丁度あの位の奥様が御為・・・ 島崎藤村 「刺繍」
・・・私は、その亭主を、仮にこの小品の作者御自身と無理矢理きめてしまって、いわば女房コンスタンチェの私は唯一の味方になり、原作者が女房コンスタンチェを、このように無残に冷たく描写している、その復讐として、若輩ちから及ばぬながら、次回より能う限り意・・・ 太宰治 「女の決闘」
出典:青空文庫