・・・その空気は祖国への無関心を伴うたものであり、新しき祖国への愛に目ざめしめることが一般的に文化への熱情を呼び起こす前提である。 そのためには具体的の共同体というものが、父母から発生し、大家族を通しての、血族的、言的共生を契機とし、共同防敵・・・ 倉田百三 「学生と先哲」
・・・そうして誌された内容とは無関係にそこに取り扱われている土地その物に対する興味と愛着を呼び起こす。 専門の学術の参考書でもよく似た事がある。何かある題目に関して広く文献を調べようという場合にはいろいろなエンチクロペディやハンドブーフという・・・ 寺田寅彦 「案内者」
・・・たとえば獅子やジラフやゼブラそのものの生活姿態のおもしろいことはもちろんであるが、その周囲の環境ならびにその環境との関係が意外な新しい知識と興味を呼び起こす場合がはなはだ多い。たとえばライオンと風になびく草原との取り合わせなどがそうである。・・・ 寺田寅彦 「映画時代」
・・・の文字に現われた行文の惰力が作者の頭に反応して、ただ空で考えただけでは決して思い浮かばないような潜在的な意識を引き出し、それが文字に現われて、もう一度作者の頭に働きかけることによって、さらに次の考えを呼び起こす、というのが実際の現象であるよ・・・ 寺田寅彦 「科学と文学」
・・・ 大山鳴動して一鼠が飛び出したといったようなときの笑いは理知的であり、校長先生の時ならぬくしゃめが生徒の間に呼び起こす笑いなどには道徳的の色彩がある。喜怒愛憎の高潮に伴なう涙は理知や道徳などとは関係の薄い情緒的のものであるが、哀別離苦の・・・ 寺田寅彦 「自由画稿」
・・・同じ誤謬に立脚した変態の俳句などは、自分の皮膚の黄色いことを忘れた日本人のむだな訓練によってゆがめられた心にのみ感興を呼び起こすであろう。 この短詩形の中にはいかなるものが盛られるか。それはもちろん風雅の心をもって臨んだ七情万景であり、・・・ 寺田寅彦 「俳諧の本質的概論」
・・・ こういうふうに、旋律的な物売りの呼び声が次第になくなり、その呼び声の呼び起こす旧日本の夢幻的な情調もだんだんに消えうせて行くのは日本全国共通の現象らしい。 郷里で昔聞き慣れた物売りの声も今ではもう大概なくなったらしいが、考えてみる・・・ 寺田寅彦 「物売りの声」
・・・これは記憶する上に便なるばかりでなく、事がらは忘れていても、その絵を思い出すと、容易に記憶を呼び起こすことができ、また試験が済んだよほど後になっても、この絵さえ見ると、たやすく教科書中の事項を理解しうる利益がある。従って自分の用いた教科書は・・・ 寺田寅彦 「わが中学時代の勉強法」
出典:青空文庫