・・・銃の命中したその鳥は、沼の中心へ落ちたであります。従って高級なる猟犬として泳いだのであります。」 と明確に言った。 のみならず、紳士の舌には、斑がねばりついていた。 一人として事件に煩わされたものはない。 汀で、お誓を抱いた・・・ 泉鏡花 「神鷺之巻」
・・・我々鈍漢が千言万言列べても要領を尽せない事を緑雨はただ一言で窮処に命中するような警句を吐いた。警句は天才の最も得意とする武器であって、オスカー・ワイルドもメーターランクも人気の半ばは警句の力である。蘇峰も漱石も芥川龍之介も頗る巧妙な警句の製・・・ 内田魯庵 「斎藤緑雨」
・・・ ――戦死者中福井丸の広瀬中佐および杉野兵曹長の最後はすこぶる壮烈にして、同船の投錨せんとするや、杉野兵曹長は爆発薬を点火するため船艙におりし時、敵の魚形水雷命中したるをもって、ついに戦死せるもののごとく、広瀬中佐は乗員をボートに乗り移・・・ 国木田独歩 「号外」
・・・ 二人の弾丸は、殆んど同時に、命中したものらしかった。可憐な愛嬌ものは、人間をうつ弾丸にやられて、長い耳を持った頭が、無残に胴体からちぎれてしまっていた。恐らく二つの弾丸が一寸ほど間隔をおいて頸にあたったものであろう。 二人は、血が・・・ 黒島伝治 「雪のシベリア」
・・・ほのあたたかいこぶしが、私の左の眼から大きい鼻にかけて命中した。眼からまっかな焔が噴き出た。私はそれを見た。私はよろめいたふりをした。右の耳朶から頬にかけてぴしゃっと平手が命中した。私は泥のなかに両手をついた。とっさのうちに百姓の片脚をがぶ・・・ 太宰治 「逆行」
・・・ 目的の当の相手にだけ、あやまたず命中して、他の佳い人には、塵ひとつお掛けしたくないのだ。私は不器用で、何か積極的な言動に及ぶと、必ず、無益に人を傷つける。友人の間では、私の名前は、「熊の手」ということになっている。いたわり撫でるつもり・・・ 太宰治 「作家の像」
・・・狆の頭部に命中した。きゃんと一声するどく鳴いてから狆の白い小さいからだがくるくると独楽のように廻って、ぱたとたおれた。死んだのである。雨戸をしめて寝床へはいってから、父は眠たげな声でたずねた。どうしたのじゃ。三郎は蒲団を頭からかぶったままで・・・ 太宰治 「ロマネスク」
・・・だから新聞に出る事件を見ると命中面のひろい腹背なんかうっては、必要のない殺人をひきおこしています。それはみんな軍隊で教わったものです。そういう人が十万、十五万あればある意味では一種の殺人隊です。治安を守る人よりもあるときにおいて極端に治安を・・・ 宮本百合子 「浦和充子の事件に関して」
出典:青空文庫