・・・ばアイコとでも申すべきで、むしろ役人のほうは、その大半、幼にして学を好み、長ずるに及んで立志出郷、もっぱら六法全書の糞暗記に努め、質素倹約、友人にケチと言われても馬耳東風、祖先を敬するの念厚く、亡父の命日にはお墓の掃除などして、大学の卒業証・・・ 太宰治 「家庭の幸福」
・・・ 二月の十三日は私の誕生日と母の命日とが重なるので何か特別よいことはないかしらと今からたのしみにして居ります。あなたはそれを覚えておいでになるかしら、忘れていらっしゃるかしらなど、中川でおべん当を注文する折考えました。 ところで、二・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・ 香織さんの霊が不滅であると信じずにいられない思い。命日には同じ思いの人々が集って涙をしぼる物語に心を休めているにしろ、その嘆きの底に「あれは一体、誰ゆえに」という疑いが絶えることなく閃いているというのは、理性の方法をもって愛のためにた・・・ 宮本百合子 「その願いを現実に」
・・・母の命日が六月十三であった。一家揃って食事をする好い機会として父と私、そして家じゅうの者が毎月十三日、夜か昼かにきっと時間をあけておくようにしているのであった。 父は、十三日にねという私の挨拶には直ぐ答えず、口を大きくへの字形にして悲し・・・ 宮本百合子 「わが父」
出典:青空文庫