・・・ろん今でも未開時代そのままの模範的な迷信が到るところに行われて、それが俗にいわゆる知識階級のある一部まで蔓延している事は事実であるが、それとは少し趣を異にした事柄で、科学的に験証され得る可能性を具えた命題までが、一からげにして掃き捨てられた・・・ 寺田寅彦 「厄年と etc.」
・・・というお題目のような命題の前提として引用される。これは、この言葉の意味の解釈次第ではまさにそのとおりであるが、しかしこういう簡単な、わずか一二行の文句で表わされた事はとかく誤解され誤伝されるものである。いったいにこの種類の誤伝と誤解の結果は・・・ 寺田寅彦 「量的と質的と統計的と」
・・・ 私のこのはなはだ不完全に概括的な、不透明に命題的な世迷い言を追跡する代わりに、読者はむしろ直接に、たとえば猿蓑の中の任意の一歌仙を取り上げ、その中に流動するわが国特有の自然環境とこれに支配される人間生活の苦楽の無常迅速なる表象を追跡す・・・ 寺田寅彦 「連句雑俎」
・・・まず大体の上においてこの命題は確然たる根拠のあるものと御考えになっても差支早い話しが無臭無形の神の事でもかこうとすると何か感覚的なものを借りて来ないと文章にも絵にもなりません。だから旧約全書の神様や希臘の神様はみんな声とか形とかあるいはその・・・ 夏目漱石 「文芸の哲学的基礎」
・・・無論それはスピノザのいう如く一つの命題としてスム・コギタンスとしても、問題はこのスムになければならない。我々の自己自身を、デカルトの如き意味において一つの実体と考えるならば、それにおいての内的事実として、いわゆる明晰判明なる真理も、主観的た・・・ 西田幾多郎 「デカルト哲学について」
・・・その深遠な理由は、思想が人間性の苦悩の底へ、無限に深くもぐりこんで抜けないほどに根を持つて居るのと、多岐多様の複雑した命題が、至るところで相互に矛盾し、争闘し、容易に統一への理解を把握することができないこと等に関聯して居る。ニイチェほどに、・・・ 萩原朔太郎 「ニイチェに就いての雑感」
・・・私は、光線は誰に属すべきものかという問題の方が、監獄にあっては、現在でも適切な命題と考える。 小さな葉、可愛らしい花、それは朝日を一面に受けて輝きわたっているではないか。 総べてのものは、よりよく生きようとする。ブルジョア、プロレタ・・・ 葉山嘉樹 「牢獄の半日」
・・・クリスト教信者諸氏、処を換えて次の如き命題を諸氏は許容するか、仏教国に生れてクリスト教を信ずる所以はどうしてもクリスト教が深遠だからであると。諸君はその軽薄に不快を禁じ得ないだろう。私から云うならば前論士の如きにいずれの教理が深遠なるや見当・・・ 宮沢賢治 「ビジテリアン大祭」
・・・若い人々は、まず基本的命題としてこの自主的発言をした上できょう日本の新聞に溢れている戦争挑発の記事をよむべきで、しかもそれは全世界の青年男女の発言である、平和要求の発言を自身に向ってもはっきりとした上で、キリストへの信仰をもつものならその実・・・ 宮本百合子 「生きつつある自意識」
・・・ この如何に生きるかという命題は、阿部知二の諸作のテーマでもある。この作家は島木健作とは異って、「冬の宿」、「幸福」等にみられる通り、思想と行為の分裂やその二つのものの機械的な綯い合せの域を一歩進めて、生活全面の無目的な自転を、その文学・・・ 宮本百合子 「昭和の十四年間」
出典:青空文庫