・・・と名づける道具で現わすことが困難であると同様にこの映画の律動的和声的要素の長所を文字の羅列で置き換えようとすることは、始めから見込みのないことでなければならない。 音楽における律動的要素の由来は、学問的に言えばなかなかむつかしい問題であ・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・ それで芸術家が神来的に得た感想を表わすために使用する色彩や筆触や和声や旋律や脚色や事件は言わば芸術家の論理解析のようなものであって、科学者の直感的に得た黙示を確立するための論理的解析はある意味において科学者の技巧とも見らるべきものであ・・・ 寺田寅彦 「科学者と芸術家」
・・・ 始めての私にはこれらの曲や旋律の和声がみんなほとんど同じもののように聞えた。物に滲み入るような簫の音、空へ舞い上がるような篳篥の音、訴えるような横笛の音が、互いに入り乱れ追い駆け合いながら、ゆるやかな水の流れ、静かな雲の歩みのようにつ・・・ 寺田寅彦 「雑記(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・連歌に始まり俳諧に定まった式目のいろいろの規則は和声学上の規則と類似したもので、陪音の調和問題から付け心の不即不離の要求が生じ、楽章としての運動の変化を求めるために打ち越しが顧慮され去り嫌い差合の法式が定められ、人情の句の継続が戒められる。・・・ 寺田寅彦 「俳諧の本質的概論」
・・・ 複音が相次いで進行する場合にそこにいろんな込み入ったいわゆる和声学上の規則が生まれて来る。これらを一々引き合いに出して連句の場合に付会しようとしても、それはおそらく始めから無理であるにきまっているが、しかし連句の相次ぐ二句の接触によっ・・・ 寺田寅彦 「連句雑俎」
出典:青空文庫