・・・んなに負けいくさでは無く、いや、そろそろもう負けいくさになっていたのでしょうが、私たちにはそんな、実体、ですか、真相、ですか、そんなものはわからず、ここ二、三年頑張れば、どうにかこうにか対等の資格で、和睦が出来るくらいに考えていまして、大谷・・・ 太宰治 「ヴィヨンの妻」
・・・プロヴォンサルの伯とツールースの伯の和睦の会はあちらで誰れも知らぬものはないぞよ」「ふむそれが?」とウィリアムは浮かぬ顔である。「馬は銀の沓をはく、狗は珠の首輪をつける……」「金の林檎を食う、月の露を湯に浴びる……」と平かならぬ・・・ 夏目漱石 「幻影の盾」
・・・ テねずみが、「それで、その、わたしの考えではね、どうしてもこれは、その、共同一致、団結、和睦の、セイシンで、やらんと、いかんね。」と言いました。 クねずみは、「エヘン、エヘン。」と聞こえないようにせきばらいをしました。相手・・・ 宮沢賢治 「クねずみ」
・・・けれども、今はただ一人の男のとり合いをやめて和睦した二人の女が抱き合ったのではない。ひろさの違いこそあれ、同じ目標に向って、めいめいはっきり自分の道をもつ二人の女同志が抱き合ったのであった。「――すっかり……終った。」 インガが独言・・・ 宮本百合子 「「インガ」」
・・・ローレンスは、生活の現実におそいかかって来る果しない矛盾、恐怖、解決の見出されない不安を、感覚の世界へ没入することでいやされ、人生との和睦を見出したのだった。その感覚的生存感の核心を性に見出したのだった。 ローレンスの勇気にかかわらず、・・・ 宮本百合子 「傷だらけの足」
・・・が、対立の原因となる多くの見解の相違中のただ一つ、恋愛や婦人に対する二人の考えかたの違いだけを見ても、私は十分ツルゲーネフとトルストイは和睦のない対立に置かれたであろうと考える。 何故なら、ツルゲーネフは、恋愛や婦人についての見解におい・・・ 宮本百合子 「ツルゲーネフの生きかた」
・・・これから生い立ってゆく子供の元気は盛んなもので、ただおばあ様のおみやげが乏しくなったばかりでなく、おっか様のふきげんになったのにも、ほどなく慣れて、格別しおれた様子もなく、相変わらず小さい争闘と小さい和睦との刻々に交代する、にぎやかな生活を・・・ 森鴎外 「最後の一句」
・・・羽柴秀吉が毛利家と和睦して弔合戦に取って返す。旅中の家康は茶屋四郎次郎の金と本多平八郎の鑓との力をかりて、わずかに免れて岡崎へ帰った。さて軍勢を催促して鳴海まで出ると、秀吉の使が来て、光秀の死を告げた。 家康が武田の旧臣を身方に招き寄せ・・・ 森鴎外 「佐橋甚五郎」
・・・しかし悲しいながらも自分の運命と和睦している、不平のない声で云った。 フィンクは驚き呆れた風で、間を悪げに黙った。そして暗い所を透かして見たが、なんにも見えなかった。空気はむっとするようで、濃くなっているような心持がする。誰がなんの夢を・・・ 著:リルケライネル・マリア 訳:森鴎外 「白」
・・・信玄の遺言といわれるものは、勝頼に対して、おれの死後謙信と和睦せよ、和睦ができたらば、謙信に対して頼むと一言言え、謙信はそう言ってよい人物であると教えている。真偽はとにかく、信玄はそういう人物と考えられていたのである。 慶長の末ごろ・・・ 和辻哲郎 「埋もれた日本」
出典:青空文庫