・・・断髪の方の髪の工合をコートがなおしてやって居る 通行人 ポートフォリオを抱えた爺、学生、アルパカの上っぱりをきた職人、若い女――浴衣、すあし、唐人まげ 特に若い女断髪の方をしきりに見てゆく 男却って感情あらわさず 女皆 おや・・・ 宮本百合子 「一九二七年春より」
・・・気のあった若い人とだまって居ながら同じ事を考えながらあの道をスベッて行きたい、心の底に小さい又すてがたい詩の湧いて居る気持で―― 唐人まげに濃化粧の町娘にも会うだろうし、すっきりしたなりの女にも会うだろうし―― 銀座の夜の町に私が行・・・ 宮本百合子 「つぼみ」
・・・木材を愛す日本人に比較し、その事業を完成したのは、所謂唐人達の手柄であろうか。長崎の市を、何等史的知識なく一巡した旅客の記憶にも確り印象されるのは、この水に配された石橋の異国的な美や古寺の壮重な石垣と繁った樹木との調和等ではあるまいか。長崎・・・ 宮本百合子 「長崎の一瞥」
・・・こんな事を云ってぽっくりの群の中に雪駄が妙に見える様に濃化粧に唐人まげに云(ったなまめいた人の群に言葉から様子までまるで異った私がポツンとはさまって――それでも仲よく遊んだり話をしたりした。私が土間に立って斯う云うと、「早う御上り、今日・・・ 宮本百合子 「ひな勇はん」
・・・島木氏は、今日の作家のそのような姿こそ、そのままで却って積極的なものを語る場合がないとは云えないと云っている。唐人お吉が自分の惨めな生存そのもので当時の社会に抗議しているように、作家の惨めな姿そのものが抗議であると。 だが、このことも、・・・ 宮本百合子 「文学における今日の日本的なるもの」
・・・それに綿を入れてくくって唐人まげの根元に緋縮緬をかけてはでな色の着物をきせて、帯をむすんでおひなさんは出来上った。二人はそれをまん中に置いて目も鼻も口さえない、それでも女と云う感じがする不思議なこの御人形さんを見て居た。「たまにフッとし・・・ 宮本百合子 「芽生」
出典:青空文庫