・・・知性を否定して端的に啓示そのものを受けいれねばならぬ。それは書物ではできない。その意味においては、弁証法的神学者がいうように、聖書でさえも啓示を語った書ではあるが、啓示そのものではないのである。 かように書物と知性から離れて端的に神の啓・・・ 倉田百三 「学生と読書」
・・・り記憶しているが、私はその短篇集を読んで感慨に堪えず、その短篇集を懐にいれて、故郷の野原の沼のほとりに出て、うなだれて徘徊し、その短篇集の中の全部の作品を、はじめから一つ一つ、反すうしてみて、何か天の啓示のように、本当に、何だか肉体的な実感・・・ 太宰治 「『井伏鱒二選集』後記」
・・・何か先生より啓示を得たいと思う。一つ御説明を願いたい。端的に。ダダイズムとは結局、何を意味するか。お願いします。草田舎の国民学校訓導より。―― 私は返事を出した。 ――拝復。貴翰拝読いたしました。ひとにものを尋ねる時には、も少してい・・・ 太宰治 「新郎」
・・・という本が出て、また別な文学の世界の存在を当時の青年に啓示した。一方では民友社で出していた「クロムウェル」「ジョン・ブライト」「リチャード・コブデン」といったような堅い伝記物も中学生の机上に見いだされるものであった。同時にまた「国民小説」「・・・ 寺田寅彦 「科学と文学」
・・・の温雅で明媚な色彩はたしかに驚くべき発見であり啓示でなければならなかった。遠い美しい夢の天国が夕ばえの雲のかなたからさし招いているようなものであった。 当時の自分のこの「油絵」の貧しいコレクションの中には「シヨンの古城」があった。それか・・・ 寺田寅彦 「青衣童女像」
・・・一つにはこの泰西科学の進歩がもたらした驚異の実験が、私の子供の時から芽を出しかけていた科学一般に対する愛着の心に強い衝動を与えたためであろうが、そのほかにまだ何かしらある啓示を与えたものがあるためではないかと思っている。私は今でも事にふれて・・・ 寺田寅彦 「蓄音機」
・・・たとえ胴中を枝の貫通した鳥の絵は富豪の床の間の掛物として工合が悪いかもしれぬが、そういう事を無視して絵を画く人が存在するという事実自身が一つの注目すべき啓示ではあるまいか。自分は少し見ているうちにこの種の非科学的な点はもうすっかり馴れてしま・・・ 寺田寅彦 「津田青楓君の画と南画の芸術的価値」
・・・またそういうものを記述する事によって各自の職務の遂行上有益な啓示を得る場合もかなり多いだろうと思われる。 こういう大新聞社の経営を少数な資本家の手にゆだねるのは穏当ではあるまい、これはむしろ全国民自身か、少なくもその大部分の共同経営によ・・・ 寺田寅彦 「一つの思考実験」
・・・ また物理学者は電子や原子の問題の追究に忙しくて、到底日常眼前の現象を省みる暇がないありさまであるから、渦巻の現象が吾人に啓示しつつある問題のほうにふり向く機会がありそうには思われない。しかしたとえば液体の渦の生成や分布や相互作用につい・・・ 寺田寅彦 「物理学圏外の物理的現象」
・・・しかしそれは単に原子電子の世界に関する事ばかりでなく、これらの原子電子から構成されているすべての世界における因果関係に対する考え方の立て直しを啓示するように見える。 いかに現在の計測を精鋭にゆきわたらせることができたとしても、過去と・・・ 寺田寅彦 「野球時代」
出典:青空文庫