・・・ 全然反対の例にとれる龍安寺の石庭のことなど喋りながら、彼等は真葛ケ原をぬけた。芝生の上はかなりの人出で、毛氈の上に重箱を開いて酒を飲んでいる連中が幾組もあった。大人の遊山の様がいかにも京都らしい印象を彼等に与えた。 円山の方へ向っ・・・ 宮本百合子 「高台寺」
・・・ズブの無学文盲の農民は、この作者が喋らしているような喋りかたはしねえもんだ。『神聖な処女の噺』は、ありゃ新聞からとって来たもんだね。俺等の村じゃああいう、『神聖なもの』はどんな馬鹿な奴だって引きつけやしねえ」 この農民批評家はなかなか手・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェトの芸術」
・・・それは、なげやりに暮していると云うより、普通の生活条件の中では私はどちらかというと御存知の通り用心深く体を扱う方ですし、心持の方から云えば、いつだって元気で、外に云いようがないし、つい細々したことをお喋りしなかったのです。でも、きょうはこの・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・(アラ、どうしたのでしょう、小学校のラジオが大きい声で、株の相場を喋り出した。三十八円十 この間の音楽会で広津さんにあいました。いつも元気ですねと云っていた。私が『日日』にかいた随筆のことをいっていたのです。さっきその原稿料が来た。・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・大切なことというのは、誰しも始終喋りちらしはしないし、どこででも出してひろげるということをしないし、平気でそれに狎れて感じがなくなってしまったりするようには決して扱わない。愛だの美しい精神だのと絶えず口に出す女のひとをみれば、人々は、ああい・・・ 宮本百合子 「今日の生活と文化の問題」
・・・四十人ばかり、今夜アメリカに向って立つというペルシアの若者が英語と自分の国の言葉とで喋りながら、食堂の一方を占めていた。小指に美しい宝石入りの男指環などはめ、それが浅黒くて眉の弓なりの顔につり合っているという種類の若者どもである。 自分・・・ 宮本百合子 「石油の都バクーへ」
・・・朝子の方は所謂醜女の深なさけで、男が、女と思わず手にさわり喋りするのを、自分が卓越して居る為とか、愛されて居る為とか思って幸福に人生を麗らかにして居るところ痛ましきかぎり。又良人が自由にさせたい通りさせて置くのを、一層深き理解と愛の為と思い・・・ 宮本百合子 「一九二三年冬」
・・・ あきらめて、ベズィメンスキーは手をあげ、まだやまぬ拍手を制して、自分の云いたいことを喋りだした。 この詩劇は、五ヵ年計画のごく初期、ウダールニクがモスクワにたった十三しか組織されていなかった時に書かれた歴史的な作品であること。欠点・・・ 宮本百合子 「ソヴェトの芝居」
・・・やがて、明に私の気を引立たせる積りで、彼は、飛び過て行く道路の上で目についた些細なことを捕えて活溌に喋り出した。間に軽い諧謔さえ混ぜる。おどけながら、父は頻りに手巾を出して鼻をかんだ。その度に、やっと笑っている私は、幾度か歔り上げて泣き出し・・・ 宮本百合子 「祖母のために」
・・・―― 何年だったか、兎に角その或る薄ら寒い午後、芥川さんは制服の膝をきちんと折って坐って、ぽつぽつ喋りながら、時々、両肱を張って手を胸の前で合わせては上から下へ押し下げるような風をなすった。 やがて夕方になり、三人はお鮨をたべた。ト・・・ 宮本百合子 「田端の坂」
出典:青空文庫