・・・ 口を溢れそうに、なみなみと二合のお銚子。 いい心持の処へ、またお銚子が出た。 喜多八の懐中、これにきたなくもうしろを見せて、「こいつは余計だっけ。」「でも、あの、四合罎一本、よそから取って上げましたので、なあ。」 ・・・ 泉鏡花 「七宝の柱」
・・・―― と精々喜多八の気分を漾わせて、突出し店の硝子戸の中に飾った、五つばかり装ってある朱の盆へ、突如立って手を掛けると、娘が、まあ、と言った。 ――あら、看板ですわ―― いや、正のものの膝栗毛で、聊か気分なるものを漾わせ過ぎた形・・・ 泉鏡花 「雛がたり」
・・・ ここは弥次郎兵衛、喜多八が、とぼとぼと鳥居峠を越すと、日も西の山の端に傾きければ、両側の旅籠屋より、女ども立ち出でて、もしもしお泊まりじゃござんしないか、お風呂も湧いていずに、お泊まりなお泊まりな――喜多八が、まだ少し早いけれど……弥・・・ 泉鏡花 「眉かくしの霊」
・・・ 翼賛会の国民生活指導部長喜多氏は、十三日の朝日新聞へ、国民的訓練の欠如、健全な娯楽の指導の必要としてこの事件を観察し、そこに学生の多かったことは特別反省すべきことだと、「昨夜もあすこへ行って学生を呼んで叱りとばしたが今の時代、学生は娯・・・ 宮本百合子 「「健やかさ」とは」
・・・介錯は河喜多八助がした。右田は大伴家の浪人で、忠利に知行百石で召し抱えられた。四月二十七日に自宅で切腹した。六十四歳である。松野右京の家隷田原勘兵衛が介錯した。野田は天草の家老野田美濃の倅で、切米取りに召し出された。四月二十六日に源覚寺で切・・・ 森鴎外 「阿部一族」
出典:青空文庫