・・・この頃主人政元はというと、段魔法に凝り募って、種の不思議を現わし、空中へ飛上ったり空中へ立ったりし、喜怒も常人とは異り、分らぬことなど言う折もあった。空中へ上るのは西洋の魔法使もする事で、それだけ永い間修業したのだから、その位の事は出来たこ・・・ 幸田露伴 「魔法修行者」
・・・ 大山鳴動して一鼠が飛び出したといったようなときの笑いは理知的であり、校長先生の時ならぬくしゃめが生徒の間に呼び起こす笑いなどには道徳的の色彩がある。喜怒愛憎の高潮に伴なう涙は理知や道徳などとは関係の薄い情緒的のものであるが、哀別離苦の・・・ 寺田寅彦 「自由画稿」
・・・例えば鼻の大きい人の鼻を普通の計測的の大きさの比以上に廓大して描いたり、喜怒の感情の発現を誇張した身振りで示すがごときは、最も月並な慣用手段である。もう少し進んだのになると、鼻や小鼻の曲線のあるデリケートな抑揚をつかまえて、これを少しアクセ・・・ 寺田寅彦 「漫画と科学」
・・・やがて お前等は繰れど、繰れどつきぬ 人類の喜怒に愕き 畏れて 静かなケイを震わせる時が来るだろう。 八月三十日不図 軌道を脱れた 星一つ 宏い 秋の空間を横切って 墜ちた。・・・ 宮本百合子 「初夏(一九二二年)」
出典:青空文庫