・・・この像の仕上げのために喜捨を募るという張り札がしてある。回廊の引っ込んだ所には、僧侶が懺悔をきく所がいくつもある。一昨年始めてイタリアのお寺でこの懺悔をしているところを見ていやな感じがしてから、この仕掛けを見るごとに僧侶を憎み信徒をかわいく・・・ 寺田寅彦 「先生への通信」
・・・字を読むことも書くことも知らず、辛い心の訴えどころがないので、つい坊主にだまされ、一生喜捨をまき上げられる有様だったのです。 都会の勤労婦人の生活だって決してこれにまさったものではなかった。亭主はよくのんだくれる。そして女房を殴る。工場・・・ 宮本百合子 「ソヴェト同盟の婦人と選挙」
・・・ 出口のやっと一人ずつ通れる柵の左右に僧が立って口をあけた喜捨袋を突きつけた。 ハイド・パアクの騎馬道では艷やかな馬と人とがひるまえの樹の下を動いていた。おさげの少女である。山高帽と黒い乗馬服の長い裾との間に現代英国女性の容貌が・・・ 宮本百合子 「ロンドン一九二九年」
出典:青空文庫