・・・文壇の外に出るということが言われているのであるが、抽象的な文壇はその人々の経済生活を支えるための出版活動をしていたというのではないから、執筆は従来も営利的な出版物の上にされていた訳である。作品の市場としての今日の新聞雑誌、単行本出版のことは・・・ 宮本百合子 「今日の文学の鳥瞰図」
封鎖で原稿料を払うということは、これから作品をかいてゆく人のために、ますます条件がわるい、新しい作家、新しい日本の文学は生れにくい、ということである。今日、出版は、大部分が営利に立っている。営利の目やすから、荷風のところへ・・・ 宮本百合子 「作家への新風」
・・・こういう芸術味のある歌も、営利の為につまらぬ興業師などに利用されて、歌の上手な婦人で思わぬ不幸な運命に陥いる事があります。アイヌの歌を真に理解して、それに興を覚えて聞くならよいでしょうが、見世物のようにされては可哀想です。 彫刻など・・・ 宮本百合子 「親しく見聞したアイヌの生活」
・・・俗悪出版企業者は、現代の心理の一面を、誇張し、煽情し、刺戟して、一銭でもより多く投じさせようとする。営利映画会社では、より濃厚な情痴の場面を、と先をあらそっている。 次第に覚醒している日本の民衆が肚の底からそのためにたたかっているより明・・・ 宮本百合子 「商売は道によってかしこし」
・・・ 誕生このかた不断の栄養失調のうちに辛うじて息づいて来た旧日本文学の精神は、全く非人間的な擅断と営利主義とによって導かれた自身の崩壊さえも、その事実の重大さにおいて自覚し得なかった。 新しい文学創造の源泉は決して器用な便乗の手際には・・・ 宮本百合子 「新日本文学の端緒」
・・・それは紙の問題である。営利出版は一巻の紙から最も高率な利潤を求め、必ずうれることを求める。その結果一番うれる最低の安全性としてエロティシズムに陥っている。これは出版関係の専門家の解剖である。『星』や『レーニングラード』は営利雑誌ではない・・・ 宮本百合子 「政治と作家の現実」
・・・しかしその場合ほとんどすべてが商業主義の出版と、営利的なジャーナリズムにたいして、文学・芸術の独自性を守ろうとしたことが動機です。アメリカやアイルランドの小劇場は興業資本にたいして、金儲け専一でないほんとうの劇場、ほんとうの演劇をもちたいと・・・ 宮本百合子 「一九四六年の文壇」
・・・ だから日本のように非常に短い時間に、非常に沢山のフィルムを、営利会社が有っている映画館の需要を充たすために粗製濫造をする、そういう悲劇は製作者にとってないわけである。それで今までプドフキンでも、エイゼンシュテインでも非常に長い時間かか・・・ 宮本百合子 「ソヴェト・ロシアの素顔」
・・・日本のように、明治以来、よろめきつつ漸々前進しつつある近代の精神を、精神の自立的成長よりテムポ迅い営利的企業がひきさらって、文学的精励、文壇、出版、たつき、と一直線に、文学商売へ引きずりおとしてしまう現象は、中国文学にまだ現れていないのでは・・・ 宮本百合子 「春桃」
・・・広告心理研究の、これは、積極的手段の一例、愛郷心及営利心を利用する方法の実例として好箇のものであるに違いない。―― 雨がやんだ。靄が手摺の下まで迫って来た。今にもう少し暗くなると、狭い温泉町の入口に高く一つ電燈が点る。特に靄のこめた・・・ 宮本百合子 「夏遠き山」
出典:青空文庫