・・・ が、かく菌を嗜むせいだろうと人は言った、まだ杢若に不思議なのは、日南では、影形が薄ぼやけて、陰では、汚れたどろどろの衣の縞目も判明する。……委しく言えば、昼は影法師に肖ていて、夜は明かなのであった。 さて、店を並べた、山茱萸、山葡・・・ 泉鏡花 「茸の舞姫」
・・・が、紅い襷で、色白な娘が運んだ、煎茶と煙草盆を袖に控えて、さまで嗜むともない、その、伊達に持った煙草入を手にした時、――「……あれは女の児だったかしら、それとも男の児だったろうかね。」 ――と思い出したのはそれである。―― で、・・・ 泉鏡花 「伯爵の釵」
・・・ 渠は煙草を嗜むにあらねど、憂を忘れ草というに頼りて、飲習わんとぞ務むるなる、深く吸いたれば思わず咽せて、落すがごとく煙管を棄て、湯呑に煎茶をうつしけるが、余り沸れるままその冷むるを待てり。 時に履物の音高く家に入来るものあるにぞ、・・・ 泉鏡花 「化銀杏」
・・・墓場を発いて屍体を嗜む変質者のような残忍なよろこびを俺は味わった。 この溪間ではなにも俺をよろこばすものはない。鶯や四十雀も、白い日光をさ青に煙らせている木の若芽も、ただそれだけでは、もうろうとした心象に過ぎない。俺には惨劇が必要なんだ・・・ 梶井基次郎 「桜の樹の下には」
・・・中にも弥一右衛門の二男弥五兵衛は鎗が得意で、又七郎も同じ技を嗜むところから、親しい中で広言をし合って、「お手前が上手でもそれがしにはかなうまい」、「いやそれがしがなんでお手前に負けよう」などと言っていた。 そこで先代の殿様の病中に、弥一・・・ 森鴎外 「阿部一族」
出典:青空文庫