・・・には、一方ではまたたいへんに損をするというようなぐあいで、みんなの気持ちがいつも一つではなかったから、怒るものもあれば、また喜ぶものがあり、中には泣くものまた笑うものがあるというふうで、その間に嫉妬、嘲罵の絶える暇もなかったのでありました。・・・ 小川未明 「明るき世界へ」
・・・彼より享くる所の静と、美と、高の感化は、世の毒舌、妄断、嘲罵、軽蔑をしてわれらを犯さしめず、われらの楽しき信仰を擾るなからしむるを知ればなり。 かるが故に、月光をして汝の逍遙を照らしめよ、霧深き山谷の風をしてほしいままに汝を吹かしめよ。・・・ 国木田独歩 「小春」
・・・ 奇妙な事には、この女はあれほど私の詩の仲間を糞味噌に悪く言い、殊にも仲間で一番若い浅草のペラゴロの詩人、といってもまだ詩集の一つも出していないほんの少年でしたが、そいつに対する彼女の蔭の嘲罵は、最も物凄いものでございまして、そうして何・・・ 太宰治 「男女同権」
・・・美しい目は軽侮、憐憫、嘲罵、翻弄と云うような、あらゆる感情を湛えて、異様に赫いている。 私は覚えず猪口を持った手を引っ込めた。私の自尊心が余り甚だしく傷けられたので、私の手は殆ど反射的にこの女の持った徳利を避けたのである。「あら。ど・・・ 森鴎外 「余興」
・・・怒りは怒りをあおる。嘲罵は嘲罵を誘う。メフィストもまたメフィストを誘い出すだろう。 私はまた事を誤ったのだろうか。七 私は人の長所を見たいと思っている。そうしてなるべく多くの人に愛を感じたいと思っている。しかし私には思う・・・ 和辻哲郎 「転向」
出典:青空文庫