・・・富士の噴火は近いところで一五一一、一五六〇、一七〇〇から八、最後に一七九二年にあった。今後いつまた活動を始めるか、それとももう永久に休息するか、神様にもわかるまい。しかし十六世紀にも十八世紀にも活動したものが二十世紀の千九百何十年かにまた活・・・ 寺田寅彦 「時事雑感」
・・・ 噴火の場合もこれに同じ。仮りに科学的に信憑すべき根拠よりして、来る六十年ないし七十年間に某火山系に活動を予期し得るとせば、個人に対してはともかく、一県一道の為政者にとりては多大の参考となるべし。 予報者と被予報者との意志の疎通せざ・・・ 寺田寅彦 「自然現象の予報」
・・・これに聯関して饑饉と噴火の関係を考えた学者さえある。 蒼空の光も何物か空中にあって、太陽の光を散らすもののあるためと考えなければならない。もし何物もない真空であったら、太陽と星とが光るだけで、空は真黒に見えなければならない。それで昔の学・・・ 寺田寅彦 「塵埃と光」
・・・それは普通の積雲とは全くちがって、先年桜島大噴火の際の噴雲を写真で見るのと同じように典型的のいわゆるコーリフラワー状のものであった。よほど盛んな火災のために生じたものと直感された。この雲の上には実に東京ではめったに見られない紺青の秋の空が澄・・・ 寺田寅彦 「震災日記より」
・・・というのは、何より適切に噴火のために草木が枯死し河海が降灰のために埋められることを連想させる。噴火を地神の慟哭と見るのは適切な譬喩であると言わなければなるまい。「すなわち天にまい上ります時に、山川ことごとに動み、国土皆震りき」とあるのも、普・・・ 寺田寅彦 「神話と地球物理学」
・・・このケーブル線路の上の方の部分は近頃の噴火に破壊されていたので徒歩の外に途はなかった。風があまりに強いために他の乗客は皆登山を断念して引返したので結局この二人の日本人だけが登ることになった。地理学書でもまた物語でも読んで知っていたアトリオ・・・・ 寺田寅彦 「二つの正月」
・・・ 彼が雷電や地震噴火を詳説した目的は、畢竟これら現象の物質的解説によって、これらが神の所業でない事を明らかにし、同時にこれらに対する恐怖を除去するにあるらしい。これはまたそのままに現代の科学教育なるものの一つの目的であろう。しかし不幸に・・・ 寺田寅彦 「ルクレチウスと科学」
・・・それより早く阿蘇へ登って噴火口から、赤い岩が飛び出すところでも見るさ。――しかし飛び込んじゃ困るぜ。――何だか少し心配だな」「噴火口は実際猛烈なものだろうな。何でも、沢庵石のような岩が真赤になって、空の中へ吹き出すそうだぜ。それが三四町・・・ 夏目漱石 「二百十日」
・・・ ずうっと昔、岩手山が、何べんも噴火しました。その灰でそこらはすっかり埋まりました。このまっ黒な巨きな巌も、やっぱり山からはね飛ばされて、今のところに落ちて来たのだそうです。 噴火がやっとしずまると、野原や丘には、穂のある草や穂のな・・・ 宮沢賢治 「狼森と笊森、盗森」
・・・それから、何の、走って、走って、とうとう向うの青くかすんだ野原のはてに、オツベルの邸の黄いろな屋根を見附けると、象はいちどに噴火した。 グララアガア、グララアガア。その時はちょうど一時半、オツベルは皮の寝台の上でひるねのさかりで、烏の夢・・・ 宮沢賢治 「オツベルと象」
出典:青空文庫