・・・たった一冊出て仲間は四散した。目的の無い異様な熱狂に呆れたのである。あとには、私たち三人だけが残った。三馬鹿と言われた。けれども此の三人は生涯の友人であった。私には、二人に教えられたものが多く在る。 あくる年、三月、そろそろまた卒業の季・・・ 太宰治 「東京八景」
・・・芭蕉の名匠であったゆえんは極端から極端までちがった個性の特長を正当に認識して活躍させた点にあるので、統率者の死後これらが四散しけんかを始めたのはやはり個性のはなはだしい相違から来るのである。 この共同制作が可能であり、また共同によって始・・・ 寺田寅彦 「俳諧の本質的概論」
・・・ この十数年間は、作者の生活波瀾もはげしく、度々の検挙や投獄で、三二年ごろ書いたソヴェト報告は四散したままにすてておかれた。このたび、幾人かの友人たちの熱心な協力によって、その大部分が集められた。そして、選集第八巻、九巻をみたすこととな・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第九巻)」
出典:青空文庫