・・・激しい困惑や擾乱を内的に予期せずにはいられません。 私には、たとい良人の形体は地上から消滅しても、彼の全部は、皆、彼との結婚後更生した自己の裡に、確に、間違いなく生きているのだ、という全我的の信仰、安住も持ち得ないのです。 現在、私・・・ 宮本百合子 「偶感一語」
・・・ そういうあぶなっかしい教師しか町では見出し得ない事に困惑した父親が娘の願をきいて、今度はミュンヘン市に修業にやった。このことは、ケーテの芸術に大きい意味をもたらした。当時のミュンヘン市は、ドイツのどの都市よりも芸術に対して開放的で、進・・・ 宮本百合子 「ケーテ・コルヴィッツの画業」
・・・ 折々座談会などでそういう話題になったとき一番困惑するのは、現代の人間はまだ幸福というものをきわめて固定したものとして扱っているという点である。特に女のひとは、どういうものか幸福、不幸という二つの漠然とした、しかも抜くことのできない観念・・・ 宮本百合子 「幸福の感覚」
・・・ 私たちの朝夕には、社会的な勤労の場面に働いている女性たちが仕事と家庭との間の板ばさみで困惑している有様に満ちているのだけれど、一つの家庭の主であるということからさえ、女には独特の困難があるというのは、いかにも日本の社会の歴史の特色を語・・・ 宮本百合子 「今日の耳目」
・・・文学の理論、創作方法の問題などが、若干直訳的であったことや、例えば弁証法的創作方法という提案の中には、世界観と創作方法との二つの問題が混同し同時的に提出されていたために、創作の現実にあたって作家を或る困惑に導いたような事実は、当時にあっては・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・ 松本という予審判事は男の打ちとけた態度に好感をもったと書かれているが、読者は困惑と不快との感情にのこされるのである。 木々高太郎氏は、この小説の中で、現実と理性、合理性と現実というものを甚しい分裂、対立において示そうとしている。理・・・ 宮本百合子 「作家のみた科学者の文学的活動」
・・・ だがね、 単純な困惑を現わしてミーチャは頭を掻いた。 ――畜生、俺がフェージャぐらい言葉の数知ってたらな! フェージャは、書類入鞄をそこへ放ぽり出してカーチャを追っかけている。 ――ねカーチャ、一寸僕の云うこときいてくれよ・・・ 宮本百合子 「三月八日は女の日だ」
・・・そういう子供たちに対して、厳粛に訓戒するために、先生は非常に困惑を感じるそうだ。場所がら「特需」景気がふきあれていて、家庭にも朝鮮景気が侵入しているし、新聞雑誌などでも朝鮮の動乱で日本は儲かっていいという話がおおっぴらにされている。全体のそ・・・ 宮本百合子 「修身」
・・・が分裂したような形で作家の前にあらわれていたために生じた一種の困難、及び積極的な生活の日常的な現実と作品の創作される過程としての創作方法の解釈の間に見られていた関係の機械的なところなどが相俟って、ある困惑に陥っていた当時のプロレタリア作家は・・・ 宮本百合子 「昭和の十四年間」
・・・ 良人のオセロをそれほど愛しているのなら、率直に早くハンカチーフのとられたことを告白して、その不安や困惑を、オセロとともにわかとうとしないのだろうか、と。デスデモーナは、オセロを熱愛しながら、一方で畏怖している。オセロの愛のはげしさをうけみ・・・ 宮本百合子 「女性の歴史」
出典:青空文庫