・・・その墓地の図面と、過去帳は、和尚が大切にしているが、あいにく留守。…… 墓参のよしを聴いて爺さんが言ったのである。「ほか寺の仏事の手伝いやら托鉢やらで、こちとら同様、細い煙を立てていなさるでなす。」 あいにく留守だが、そこは雲水・・・ 泉鏡花 「燈明之巻」
ある入学試験の成績表について数学の点数と語学の点数の相関を調べてみたことがあった。各受験者のこの二学科の点数をXYとして図面にプロットしてみると、もちろん、点はかなり不規則に散布する。しかしだいたいからいえば、やはり X ・・・ 寺田寅彦 「数学と語学」
・・・T氏が特に興味をもって根ほり葉ほり聞いていたら、そのループのプランをかいた図面をくれてよこした。 だんだん山が険しくなって、峰ははげた岩ばかりになり、谷間の樅やレルヘンの木もまばらになり、懸崖のそこかしこには不滅の雪が小氷河になって凍っ・・・ 寺田寅彦 「旅日記から(明治四十二年)」
・・・ちょうど家を造るために図面を引くと一般で、八畳、十畳、床の間と云うように仕切はついていても図面はどこまでも図面で、家としては存在できないにきまっている。要するに図面は家の形式なのである。したがっていくら形式を拵えてもそれを構成する物質次第で・・・ 夏目漱石 「中味と形式」
・・・試みに男子の胸裡にその次第の図面を画き、我が妻女がまさしく我に傚い、我が花柳に耽ると同時に彼らは緑陰に戯れ、昨夜自分は深更家に帰りて面目なかりしが、今夜は妻女何処に行きしや、その場所さえ分明ならずなどの奇談もあるべしと想像したらば、さすがに・・・ 福沢諭吉 「日本男子論」
・・・ こういう無駄口はきくが、インガが第三交代の婦人労働者達に約束した托児所増設のための図面は、場所がないと云って、提出しない。「私、今日出して下さるように願っておきましたよ。」「御存じでしょうが……」「どうして? こしらえなか・・・ 宮本百合子 「「インガ」」
・・・ なるほどそういう心持であったかと、石川は二間続の離室に好意を感じながら図面を見なおした。 三日経つと立前という晩であった。 夕飯をしまって一服していると、「今晩は」と若い女の声がした。「どなた」 女房が、流しの・・・ 宮本百合子 「牡丹」
出典:青空文庫