・・・ます――以前は、北国においても、旅館の設備においては、第一と世に知られたこの武生の中でも、その随一の旅館の娘で、二十六の年に、その頃の近国の知事の妾になりました……妾とこそ言え、情深く、優いのを、昔の国主の貴婦人、簾中のように称えられたのが・・・ 泉鏡花 「雪霊記事」
・・・「国主の御用ひなき法師なれば、あやまちたりとも科あらじとや思ひけん、念仏者並びに檀那等、又さるべき人々も同意したりとぞ聞えし、夜中に日蓮が小庵に数千人押し寄せて、殺害せんとせしかども、いかんがしたりけん、其夜の害も免れぬ。」 このさ・・・ 倉田百三 「学生と先哲」
・・・或は百姓が年貢を納め町人が税を払うは、即ち国君国主の為めにするものなれば、自ら主君ありと言わんか。然らば即ち其年貢の米なり税金なり、百姓町人の男女共に働きたるものなれば、此公用を勤めたる婦人は家来に非ず領民に非ずと言うも不都合ならん。詰る所・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
・・・古庭に茶筌花咲く椿かな 雁宕久しく音づれせざりければ有と見えて扇の裏絵覚束な 波翻舌本吐紅蓮閻王の口や牡丹を吐かんとす 蟻垤蟻王宮朱門を開く牡丹かな浪花の旧国主して諸国の俳士を集めて円山に会筵しけ・・・ 正岡子規 「俳人蕪村」
出典:青空文庫