・・・ つぎの一年は家の裏手にあたる国分寺跡の松林の中で修行をした。人の形をした五尺四五寸の高さの枯れた根株を殴るのであった。次郎兵衛はおのれのからだをすみからすみまで殴ってみて、眉間と水落ちが一番いたいという事実を知らされた。尚、むかしから・・・ 太宰治 「ロマネスク」
・・・運動場は代々木の練兵場ほど広くて、一方は県社○○○神社に続いており、一方は聖徳太子の建立にかかるといわれる国分寺に続いていた。そしてまた一方は湖になっていて毎年一人ずつ、その中学の生徒が溺死するならわしになっていた。 その湖の岸の北側に・・・ 葉山嘉樹 「死屍を食う男」
・・・お家までとてもゆけないし、こっちなら電車が国分寺まで来るから、思い切って出て来たの、よかったわ、お会い出来て」 ほかに通る人のない道を、二人の女は五つの児の足幅にそって歩いて行った。「元気らしいわね――」 ひろ子は、牧子にはその・・・ 宮本百合子 「風知草」
・・・ ―――――――――――― 中山の国分寺の三門に、松明の火影が乱れて、大勢の人が籠み入って来る。先に立ったのは、白柄の薙刀を手挾んだ、山椒大夫の息子三郎である。 三郎は堂の前に立って大声に言った。「これへ参ったの・・・ 森鴎外 「山椒大夫」
出典:青空文庫