・・・ 文学と科学の国境 科学の世界には義理も人情もない。文学の世界にあるものは義理と人情のほかのものと言えばそれの反映である。しかし、科学の世界は国境の向こうから文学の世界に話しかける、その話はわれわれにいろいろのことを・・・ 寺田寅彦 「科学と文学」
・・・例えば第一区には「敵騎兵国境に進入」第二区には「重甲兵来る」と云った風な、最も普通に起り得べき色々な場合を予想してそれに関する通信文を記入しておく。次にこの土器に水を同じ高さに入れておいてこの木栓を浮かせると両方の棒は同高になること勿論であ・・・ 寺田寅彦 「変った話」
・・・婆さんはユニヴァーサルに国境を超越した存在だと思う。婆さんに人種はないのである。 北へ行くほど人間の少なくなるのを感じる。たまたま停まる停車場に下りる人もなければ乗る人もない。低い綿雲が垂れ下がって乙供からは小雨が淋しくふり出した。野辺・・・ 寺田寅彦 「札幌まで」
・・・ただに遠国のみならず、現に両国境を接する日耳曼と仏蘭西との戦争において、日は仏より五十億フランクの償金を取上げたり。他なし、隣国を貧にして自から富むの手段のみ。 かくの如きはすなわち、日耳曼の人民は隣人の貧困をみて愉快を覚ゆる者ならん。・・・ 福沢諭吉 「教育の目的」
・・・ソヴェト同盟の国境、朝鮮、満州をふくむ中華人民共和国、ビルマ、シャム、マライ、印度支那、フィリピン、とアジアの地図に描かれているどの国々をみても、こんどの戦争で日本の軍隊が侵略しなかった土地はありません。そしてそれらの国の果て果てで、平和な・・・ 宮本百合子 「新しいアジアのために」
・・・その上ドイツ官憲は執筆者たるマルクス、ルーゲ、ハイネ等の入国を禁止し、『年誌』の輸入を禁じ国境で没収した。カールが受取るべき手当も貰うどころではなくなった。しかし、イエニーは空皿を並べたテーブルにカールとその友人を招くことが出来るだろうか。・・・ 宮本百合子 「カール・マルクスとその夫人」
・・・蒙古と国境がくっついている。その中に、二十五の人種が棲んでいる。ロシアとひとくちに云っても、例えば第十六回ロシア共産党大会のあった時分のモスクワの街を歩いて見る。 赤いネクタイのロシア人のピオニェールが歩いてく後から、日本の木綿縞の長ド・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェト同盟の文化的飛躍」
・・・日露戦争へ出たことがあるし、ヨーロッパ大戦のときには独逸の国境へやられた。革命前、既に上ジリンスキー村の宗教反対運動の指導者であった。農民の言葉での所謂「物しり」である。今はコンムーナ「五月の朝」の夜番をつとめ、なかなかの美術や文学ずきで、・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェトの芸術」
・・・更に健全な国内の壮丁九十万人を国境と沿海戦の守備に充てた。なおその上に、彼はフランス本国から二十万人を、ライン同盟国から十四万七千人、伊太利から八万人を、波蘭とプロシャとオーストリアから十一万人、これに仏領各地から出さしめた軍隊を合せて七十・・・ 横光利一 「ナポレオンと田虫」
ロシアの都へ行く旅人は、国境を通る時に旅行券と行李とを厳密に調べられる。作者ヘルマン・バアルも俳優の一行とともに、がらんとした大きな室で自分たちの順番の来るのを待っていた。 霧、煙、ざわざわとした物音、荒々しい叫び声、息の詰まるよ・・・ 和辻哲郎 「エレオノラ・デュウゼ」
出典:青空文庫