・・・「そうです。国王の友だちだった革命家です。聖徒ワグネルは晩年には食前の祈祷さえしていました。しかしもちろん基督教よりも生活教の信徒のひとりだったのです。ワグネルの残した手紙によれば、娑婆苦は何度この聖徒を死の前に駆りやったかわかりません・・・ 芥川竜之介 「河童」
・・・火星じゃ君、俳優が国王よりも権力があって、芝居が初まると国民が一人残らず見物しなけやならん憲法があるのだから、それはそれは非常な大入だよ、そんな大仕掛な芝居だから、準備にばかりも十カ月かかるそうだ』『お産をすると同じだね』『その俳優・・・ 石川啄木 「火星の芝居」
・・・「おどろいた。国王は乱心か。」「いいえ、乱心ではございませぬ。人を、信ずる事が出来ぬ、というのです。このごろは、臣下の心をも、お疑いになり、少しく派手な暮しをしている者には、人質ひとりずつ差し出すことを命じて居ります。御命令を拒めば・・・ 太宰治 「走れメロス」
だいぶ古いことですが、イギリスの『タイムズ』という一流新聞の文芸附録に『乞食から国王まで』という本の紹介がのっていました。著者は四〇歳を越した一人の看護婦でした。二〇年余の看護婦としての経験と彼女の優秀な資格は、ロンドン市・・・ 宮本百合子 「生きるための協力者」
・・・現代社会の発展は生産のもっと合理的な方法によるしかなく、進歩のにない手は世界の勤労階級であることを理解しはじめていたカールは、「プロシヤ国王と社会改良」というような論文で盛にドイツの野蛮と闘った。ベルリン当局はパリのマルクスという人物が気に・・・ 宮本百合子 「カール・マルクスとその夫人」
・・・ヨーロッパにおける諸王と国王との対等に近い関係とはまるで性質がちがっていた。諸大名に対する密偵制度、抑圧制度は実にゆき届いていたから、分別のある諸大名は、世襲の領地を徳川から奪われないために、中傷をさけるための工夫に、自分たちの分別の最も優・・・ 宮本百合子 「木の芽だち」
・・・(此は余談ではございますが、当時大統領だったルーズベルトを中心にして、動いた各国王、特に露、独の心持は人間の生活の一断面として面白うございます。非常に面白うございます。不幸な露国皇帝が彼の死を死んだ運命の尖端 其から御飯を食べ、又少し本・・・ 宮本百合子 「C先生への手紙」
・・・ロシアのツァーリズムの絶対主義政治、ドイツのカイゼルの軍国主義政治その他中欧諸国で皇国とか、国王とかは、急速により民主的な権力に交替した。その中で社会生産のしくみまでを進歩させて、より人民の多数の生活向上の目的に沿う可能性がますような社会主・・・ 宮本百合子 「それらの国々でも」
・・・なぜなれば、神の選び給いし国王に耳殻が与えられていないのは、それが無用の長物であることの動かすべからざる証である。慈悲深い王は、我が愛する国民に、無用の長物を負担させて置くに忍びない。と書いてある。 自分の耳を切るのは厭だったので、総理・・・ 宮本百合子 「地は饒なり」
・・・ 一国の宗教の司の法王がそれは持って居るべきはずのものでのう。王 法王と申すものは政治の極く小さい部分の宗教を司って居るのじゃ。 国王はその国全体の政治その国の運命を握って居るのじゃと申す事は云わいでもわかって居る事での。・・・ 宮本百合子 「胚胎(二幕四場)」
出典:青空文庫