・・・く、事実の有無にかかわらず外面の美風だけはこれを維持してなお未だ破壊に至らずといえども、不幸なるは我が日本国の旧習俗にして、事の起源は今日、得て詳らかにするに由なしといえども、古来家の血統を重んずるの国風にして、嗣子なく家名の断絶する法律さ・・・ 福沢諭吉 「日本男子論」
・・・ 折鞄を小脇にかかえた日本服の商人、米国風の背広を着た男達。彼等は車道のすぐ傍を、同じように落付かない洋服姿の男等が膝かけなしで俥に乗り、カラカラ、カラと鈴をならして駆けさせるのを見ないふりで、速足に前へ前へと追い抜いて行く。 女は・・・ 宮本百合子 「小景」
・・・逸話は、いかにもこの国風な復活祭の卵のように色つきで、或る者のは白、或るもののは緑、或る者のは真赤だ。 レオニード・グレゴリウィッチ・ジェルテルスキーはやっと商業学校を出たばかりの青年であった。彼の父親は小さい町の工業家で、革命の時、理・・・ 宮本百合子 「街」
・・・抒情詩においては、和歌の形式がいまの思想を容るるに足らざるをおもい、また詩が到底アルシャイスムを脱しがたく、国民文学として立つゆえんにあらざるをいったので、款を新詩社とあららぎ派とに通じて国風新興を夢みた。小説においては、済勝の足ならしに短・・・ 森鴎外 「なかじきり」
・・・つまり現在露国で露国風に起こっている状態が、英国では英国風に、仏国では仏国風に、ドイツではドイツ風に、必ず起こるに相違ない。そうして一般民衆は現戦争の罪が敵味方共通のある種の資本家やユンケル連にあることを正直に認め、人類の光栄のためにこの種・・・ 和辻哲郎 「世界の変革と芸術」
出典:青空文庫