・・・ 今一つの競争は圏外に新手が出る事であります。これから新たに文壇に顔を出そうと機を覗っている人、もしくはすでに打って出た人のうちで、今までのものとは径路を同じゅうする事を好まない事がないとも限らない。これは今までの作物に飽き足らぬか、も・・・ 夏目漱石 「文壇の趨勢」
・・・もちろんこれは私や私の周囲のものを本位として述べるのでありますから、圏外にいたものには通用しないかも知れませんけれども、どうも今の私からふり返ってみると、そんな気がどこかでするように思われるのです。現にこの私は上部だけは温順らしく見えながら・・・ 夏目漱石 「私の個人主義」
・・・二 遠い遠い昔の幾百年かの間、我々の祖先の人々が思っていた通りに、あらゆる感情は、ただ胸によってのみ感受され、発動されるものだと仮定すれば、この時代の彼女の全生活は、その感情の宮殿の圏外には、一歩も踏み出さない範囲において進・・・ 宮本百合子 「地は饒なり」
・・・の時代、ソーニャ・コヴァレフスカヤの伝記をのせたが、青鞜の人々の行動の圏外にあった野上彌生子。プロレタリア文学運動の時代、「若い息子」「真知子」をかき、労働者階級の歴史的役割については認識しながら、当時の運動については批判をもっている者の立・・・ 宮本百合子 「婦人作家」
・・・を作家が観照の圏外に追放しただけで文学の生命が純血に保たれないのは勿論であるし、文学が現実を隈なくとらえてゆく意味でのリアリティを失ってゆくのも実際であるが、小説のなかにただそういう性格が実際生活の中でと同様に跋扈するという現象と、時代と社・・・ 宮本百合子 「文学のディフォーメイションに就て」
・・・ 征服しなければ自己を守り得ないとすれば、私は、原因となる対象を全部否定し、生活圏外に放擲してしまわなければならない。約言すれば、自箇の天性があれほどいつくしみ信じ、暖く胸に抱いて来た愛の、対人的可能を、絶対に否定し尽さなければならない・・・ 宮本百合子 「われを省みる」
・・・かように今の文壇の思想の圏外に予は立っていて、予の思想の圏外に今の文壇は立っている。福岡日日新聞が予に文壇の評を書けと曰うのは、我筆舌に課するに我思想の圏外の事を以てするのだ。予には文壇の評と云うものの書けぬことは、これで明であろう。そこで・・・ 森鴎外 「鴎外漁史とは誰ぞ」
出典:青空文庫