・・・「これは壁土の落ちたのじゃない。園芸用の腐蝕土だよ。しかも上等な腐蝕土だよ。」 僕等はいつか窓かけを下した硝子窓の前に佇んでいた。窓かけは、もちろん蝋引だった。「家の中は見えないかね。」 僕等はそんなことを話しながら、幾つか・・・ 芥川竜之介 「悠々荘」
・・・具備しながら其娯楽を味うの資格がないのである、されば今彼等を救済せようとならば、趣味の光明と修養の価値とを教ゆるのが唯一の方便である、品位ある娯楽を茶の湯に限ると云うのではない、音楽美術勿論よい、盆栽園芸大によい、歌俳文章大によい、碁でも将・・・ 伊藤左千夫 「茶の湯の手帳」
・・・どれにしても、ウエノトロン、もしくは、ニコチン製のものだったろうが、園芸の領野が広いだけに、沢山会社もあるものだと思いました。 ついに、この種の薬は、他の虫にはきいても、ありだけには、絶対的の信用が置けぬことを悟りました。それは、ありが・・・ 小川未明 「近頃感じたこと」
・・・ もう一つのわからない事は、平生別に園芸などをやっているらしくもない――堅吉にはそう思われた――甥がどうしてフリージアの根などをよこしたかが不思議に思われた。どうも、このフリージアの種は、やはりK市の姉のほうから縁を引いたものではないか・・・ 寺田寅彦 「球根」
・・・それで本のほうは断念して、園芸好きのR研究所の門衛U君に教わって理研製殺虫剤ネオトンのやや濃度の大きい溶液で目的を達せられることを知った。園芸書の著者になってみると、何々会社製の何剤がいいなどと明白に書くのは何かいけないさしつかえがあると見・・・ 寺田寅彦 「錯覚数題」
・・・ 冶金、紡織、園芸の起源や、音楽、舞踊の濫觴までもおもしろく述べてある。神の観念が夢から示唆され、それが不可解不可能なるすべての事情の持ち込み所に進化するという考えももらされている。そして結局宗教の否定が繰り返さるるのである。 ・・・ 寺田寅彦 「ルクレチウスと科学」
・・・ただ測量と園芸が来ないとか云っていた。あしたは日曜だけれども無くならないうちに買いに行こう。僕は国語と修身は農事試験場へ行った工藤さんから譲られてあるから残りは九冊だけだ。四月五日 日南万丁目へ屋根換えの手伝え(にやられ・・・ 宮沢賢治 「或る農学生の日誌」
・・・親切心のたっぷりした者でなくては園芸など出来ずと思った。温室のぶどう、バラの花を貰う。今度お菓子を持って行く約束。すっかり日がくれ提灯の明りをたよりに夜道を帰って来た。 Mよりきいた話。――承法のこと。雨が降りチング雪が降りチングで喧嘩・・・ 宮本百合子 「金色の秋の暮」
出典:青空文庫