・・・いかにも母親の注意が細かに行き届いた好い服装をし、口数の尠い男だが、普請は面白いと見え、土曜日の午後からふらりと来て夕方までいて行くことなどあった。母親もそうだが、この大学生にもどこか内気に人懐こいようなところがあった。草を拉いで積み重ねた・・・ 宮本百合子 「牡丹」
・・・ 悪態、罵声、悪意が渦巻き、子供までその憎悪の中に生きた分け前を受ける苦しい毎日なのであるが、その裡で更にゴーリキイを立腹させたのは、土曜日毎に行われる祖父の子供等に対する仕置であった。鋭い緑色の目をした祖父は一つの行事として男の子達を・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの伝記」
・・・ 子供らは、家の中にいる時は大人の喧嘩にまき込まれ、往来での遊戯は乱暴を働くことであった。土曜日ごとに、祖父が子供らを裸にしてその背を樺の鞭で打った。これは一つの行事である。ゴーリキイはその屈辱的な仕置に抵抗して、とうとう気絶し、熱をだ・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの人及び芸術」
・・・―― 或土曜日。天気のよい日であった。Aが出がけに、一時頃、須田町で会って銀座を歩こうと云って行った。その積りで起きて見ると、卓子の上に、学習院の門衛からの葉書がのって居る。 青山北町四丁目に一軒ある。見たらどうかと云うのである。・・・ 宮本百合子 「又、家」
・・・ 四 明るい冬の日光が窓からさし込んで室内に流れた。土曜日だ。もう往来で遊んでいる子供の声が、彼等の二階まで聞えた。ダーリヤ・パヴロヴナはゆったり長い膝の上に布をたぐめて、縁とりをしている。向い側に、髪をもしゃ・・・ 宮本百合子 「街」
・・・「明日は土曜日だね」「…………」「油井さんまた来るだろうか」「さあ、知らないわ」 みのえは冷淡さで自分の感情をカムフラージした。 お清はしばらく黙って袖の丸みを縫っていたが、表へかえし、出来上りの形をつけながら独言の・・・ 宮本百合子 「未開な風景」
・・・ 二 九月二十二日 土曜日 ヴォルガ河からスターリングラードへ十九日に上陸、それからウクライナの野を横切って、こちらで有名な温泉のあるキスロボードスク、ピヤチゴルスクに一晩ずつ泊りました。コーカサスに近・・・ 宮本百合子 「ロシアの旅より」
・・・ここから土曜日の午後、一紳士が茶を飲んでいるのが見えたのである。絨毯が敷いてあるから足音がしなかった。今誰もいないがやがてここで茶を飲むであろう人間のために純白の布をかけたテーブルの上に八人分の仕度がしてあった。匙やナイフは銀色に光った。菓・・・ 宮本百合子 「ロンドン一九二九年」
・・・丁度土曜日なので、花房は泊り掛けに父の家へ来て、診察室の西南に新しく建て増した亜鉛葺の調剤室と、その向うに古い棗の木の下に建ててある同じ亜鉛葺の車小屋との間の一坪ばかりの土地に、その年沢山実のなった錦茘支の蔓の枯れているのをむしっていた。・・・ 森鴎外 「カズイスチカ」
・・・ちょうど土曜日で雨が降っていた。ツァウォツキイは今一人の破落戸とヘルミイネンウェヒの裏の溝端で骨牌をしていた。そのうち暗くなって骨牌が見分けられないようになった。それに雨に濡れて骨牌の色刷の絵までがにじんでぼやけて来た。無論相手の破落戸はそ・・・ 著:モルナールフェレンツ 訳:森鴎外 「破落戸の昇天」
出典:青空文庫