・・・俺しはこのとおりの男だ。土百姓同様の貧乏士族の家に生まれて、生まれるとから貧乏には慣れている。物心のついた時には父は遠島になっていて母ばかりの暮らしだったので、十二の時にもう元服して、お米倉の米合を書いて母と子二人が食いつないだもんだった。・・・ 有島武郎 「親子」
・・・だけでは、何か足りないような気がして、こんどは一つ方向をかえ、私がこれまで東京に於いて発表して来た作品を主軸にして、私という津軽の土百姓の血統の男が、どんな都会生活をして来たかを書きしたため、また「東京八景」以後の大戦の生活をも補足し、そう・・・ 太宰治 「十五年間」
・・・ また、四民同権の世態に変じたる以上は、農商も昔日の素町人・土百姓に非ずして、藩地の士族を恐れざるのみならず、時としては旧領主を相手取りて出訴に及び、事と品によりては旧殿様の家を身代限にするの奇談も珍しからず。昔年、馬に乗れば切捨てられ・・・ 福沢諭吉 「徳育如何」
・・・一つ自分は、これまでプロレタリア作家が好んでとり上げたような闘争に高まった意識的な農民の姿だけを切りとって来ず、彼らの背後にひきつづいている現在のおくれた何千万という土百姓の生活と感情とを書いて見たいと思う、という抱負を話された。 私は・・・ 宮本百合子 「作家への課題」
出典:青空文庫