・・・「ウン起きたか省作、えい加減にして土竜の芸当はやめろい。今日はな、種井を浚うから手伝え。くよくよするない、男らしくもねい」 兄のことばの終わらぬうちに省作は素足で庭へ飛び降りた。 彼岸がくれば籾種を種井の池に浸す。種浸す前に必ず・・・ 伊藤左千夫 「春の潮」
・・・四角に仕切った芝居小屋の枡みたような時間割のなかに立て籠って、土竜のごとく働いている教師より遥かに結構である。しかし英語だけの本城に生涯の尻を落ちつけるのみならず、櫓から首を出して天下の形勢を視察するほどの能力さえなきものが、いたずらに自尊・・・ 夏目漱石 「作物の批評」
・・・ そのために、彼が土竜のように陽の光を避けて生きなければならなくなった、最初の拷問! その時には、彼は食っていない泥を、無理やりに吐き出さされた。彼の吐いたものは泥の代りに血ににじんだ臓腑であった。 汚ない姿をして、公園に寝ていた、・・・ 葉山嘉樹 「乳色の靄」
出典:青空文庫