・・・土地を貸し付けてその地代を取るのが何がいつわりだ」「そう言えば商人だっていくぶん人の便利を計って利益を取っているんですね」 理につまったのか、怒りに堪えなかったのか、父は押し黙ってしまった。禿げ上がった額の生え際まで充血して、手あた・・・ 有島武郎 「親子」
・・・僕だって、この家をただ遊ばせて置いてあるのじゃないよ。地代だって先月からまた少しあがったし、それに税金やら保険料やら修繕費用なんかで相当の金をとられているのだ。ひとにめいわくをかけて素知らぬ顔のできるのは、この世ならぬ傲慢の精神か、それとも・・・ 太宰治 「彼は昔の彼ならず」
・・・平民が、学塾を開いて生徒を教え、地面を所有して地代小作米を取立つるは、これを何と称すべきや。政府にては学校といい、平民にては塾といい、政府にては大蔵省といい、平民にては帳場といい、その名目は古来の習慣によりて少しく不同あれども、その事の実は・・・ 福沢諭吉 「学者安心論」
・・・けれども当時ロシア関税政策の結果として起った農村の窮乏。地代の騰貴。七分、八分五厘という高利の「農民銀行」を利用する富農の強化などによって、驚くべき勢で農村の階級的分裂が促進されつつあった。ロシアには一千万の労働者と、その二倍の貧農が発生し・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの伝記」
・・・決してそうではなさそうです。地代は平面で算出されます。其故、上へ上へと積上げた空間のそのまた平面を、最少限の面積で、最大限の能率に活かすアパートメント経営者の、才覚にほかなりません。そういう人間用の巣箱を「わが家」と呼んで、近代社会の何千万・・・ 宮本百合子 「よろこびの挨拶」
出典:青空文庫