・・・そして健康な感情の均整をいつも失わないOを羨しく思いました。三 私の部屋はいい部屋です。難を云えば造りが薄手に出来ていて湿気などに敏感なことです。一つの窓は樹木とそして崖とに近く、一つの窓は奥狸穴などの低地をへだてて飯倉の電・・・ 梶井基次郎 「橡の花」
・・・幼少のころには、も少し形の均斉もとれていて、あるいは優れた血が雑っているのかもしれぬと思わせるところあったのであるが、それは真赤ないつわりであった。胴だけが、にょきにょき長く伸びて、手足がいちじるしく短い。亀のようである。見られたものでなか・・・ 太宰治 「畜犬談」
・・・この建物はきわめて原始的であるが一種の均整の美をもっている。素人目にはわが大学の安田講堂よりもかえって格好がいいように思われる。デテイルがないだけに全体の輪郭だけに意匠が集注されるためかもしれない。 インパラという動物の跳躍も見物である・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・それは、理化学の進歩の結果としてあらゆる交通機関が異常に発達したのはよいが、その発達が空間的時間的に不均整なために、従来は接触し得なかったような甚だしい異質的なものの接触が烈しくなり、異質間の異性質のグレディエントが大きくなった。そうして、・・・ 寺田寅彦 「猫の穴掘り」
・・・空気のいささかな動揺にも、対比、均斉、調和、平衡等の美的法則を破らないよう、注意が隅々まで行き渡っていた。しかもその美的法則の構成には、非常に複雑な微分数的計算を要するので、あらゆる町の神経が、非常に緊張して戦いていた。例えばちょっとした調・・・ 萩原朔太郎 「猫町」
・・・ 彼女等の持つ力は、人間総ての女性に与えられるべきものであり、彼女等の苦しむ何等かの不安、不均斉は、又人間すべての女性が同じ涙で泣くものであると云う事を、私はいつも考えの裡に入れて置きとうございます。 ――○――・・・ 宮本百合子 「C先生への手紙」
・・・ 婦人の独自な条件に立って体育、知育、徳育の均斉した発達の必要と、家庭生活における夫婦の「自ら屈す可からず、また他を屈伏せしむべからざる」人性の天然に従った両性関係の確立、再婚の自由、娘の結婚にあたって財産贈与などによる婦人の経済的自立・・・ 宮本百合子 「女性の歴史の七十四年」
・・・云ってみれば、一定の文化水準にある者には、外国人に日本画の美しさがわかるように、日本人にもフィジアスの彫刻の均斉の美はわかるのだと思う。文化の相互的な理解というものは、そのような古典鑑賞にとどまらず、古典に輝いた精神が、今日の文化面でどのよ・・・ 宮本百合子 「世代の価値」
・・・きちんと、均斉保った花壇は私の嫌いなものだ。そう云う花壇に植え込まれる大部分の花、――雑種で、ジョウンジアとかスヌクシアとでも云いそうに仰々しい名前の――は私の眼を傷める。」〔一九二四年四月〕・・・ 宮本百合子 「素朴な庭」
・・・ 幹と枝々との麗わしい均斉、軟らかな輪郭と、その密度によってところどころの変化をもつ静かな緑色の群葉に飾られた樹木は、光線の工合によって、細密な樹皮の凹凸を、さながら活動する群集のように見せながら、影と陰との錯綜、直線と曲線との微妙な縺・・・ 宮本百合子 「地は饒なり」
出典:青空文庫