・・・寄ってくれた人たちは当然のこととして、診断書のこと、死亡届のこと、埋葬証のこと、寺のことなど忠実に話してくれる。自分はしようことなしに、よろしく頼むといってはいるものの、ただ見る眠ってるように、花のごとく美しく寝ているこの子の前で、葬式の話・・・ 伊藤左千夫 「奈々子」
・・・ この一物は姓名も原籍も不明というので、例のとおり仮埋葬の処置を受けた。これが文公の最後であった。 実に人夫が言ったとおり、文公はどうにもこうにもやりきれなくって倒れたのである。・・・ 国木田独歩 「窮死」
・・・ 虹吉は、おふくろを埋葬した翌日、あわたゞしげに村をたって行った。 黒島伝治 「浮動する地価」
・・・その上、坑内で即死した場合、埋葬料の金一封だけではどうしてもすまされない。それ故、役員は、死者を重傷者にして病院へかつぎこませる。これが常用手段になっていた。「可愛そうだな!」坑夫達は担架をかついで歩きながら涙をこぼした。「こんなに五体・・・ 黒島伝治 「土鼠と落盤」
・・・と言って、それを受取って穴の片隅にねじ込みながら、ふと誰かを埋葬しているような気がした。「やっと、私たちの一家も、気がそろって来たわねえ。」 と義妹は言った。 それは、義妹にとって、謂わば滅亡前夜の、あの不思議な幽かな幸福感であ・・・ 太宰治 「薄明」
・・・ 生涯の伴侶の埋葬にカールは立会うことが出来なかった。病気のため医者から外出を禁じられていたから。数人の親密な友人が、彼女をハイゲートの墓地へ送った。エンゲルスの墓前での言葉は次のように結ばれた。「このような精力と熱情をもち、戦・・・ 宮本百合子 「カール・マルクスとその夫人」
・・・鎌倉から小南の兄かえり、叔母上、季夫圧死し、仮埋葬にした由 七日 午後A来。荷物半分負うて行く。 八日 自分基ちゃん、歩いて青山に行く。 歩いて林町より三時間かかり青山に来る。やけ野原の有様、心を**にす。五番町・・・ 宮本百合子 「大正十二年九月一日よりの東京・横浜間大震火災についての記録」
出典:青空文庫