・・・一同は言葉少なになって急ぎ足に歩いた。基線道路と名づけられた場内の公道だったけれども畦道をやや広くしたくらいのもので、畑から抛り出された石ころの間なぞに、酸漿の実が赤くなってぶら下がったり、轍にかけられた蕗の葉がどす黒く破れて泥にまみれたり・・・ 有島武郎 「親子」
・・・手の届かぬ距離の計測には両眼の距離が基線となって無意識の間に巧妙な測量術が行なわれる。時間の測定には必ずしも時計はいらない。短い時間には脈搏が尺度になり、もう少し長い時間の経過は腹の減り方や眠けの催しが知らせる。地下の坑道にいて日月星辰は見・・・ 寺田寅彦 「映画の世界像」
・・・いわゆる一等三角測量である。いわゆる基線が土台になって、その上にいわゆる一等三角点網を組み立てて行く、これが地図の骨格となるべき鉄骨構造である。その網目の中に二等三等の三角網を張り渡し、それに肉や皮となり雑作となる地形を盛り込んで行くのであ・・・ 寺田寅彦 「地図をながめて」
・・・ 二つずつあるのは空間知覚のためであって、二つの間の距離が空間を測量するための基線になるのである。耳と目とが同じ高さにあるのは視覚空間と聴覚空間との連絡、同格化のために便利であろうと思われる。ところが光線伝播は直線的であるので二つの目が・・・ 寺田寅彦 「耳と目」
出典:青空文庫