・・・けれども、歴史がそこまで進む過程は実に単純でなく、容易でなく、多くの堅忍が要求される。今のように表面的にはそういう新たな歴史の建設的推進力が見にくくされているような時期には、窮乏化する小市民インテリゲンツィアが、確信をもって新たな次代の階級・・・ 宮本百合子 「新しい一夫一婦」
・・・民主的で、人間的な社会進歩に対する善意を、普通の市民的標準の意志と肉体の堅忍とで保ってゆくことができる程度の民主社会をまずつくることが、とくに日本ではまじめに考えられなければならない。現代の非人間的なものとのたたかいが、そのたたかいに立って・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第十巻)」
・・・開かれた扉の際の際まで、人民の意欲として生活的文学的創造の力が密集していて、それは奔流となってほとばしり、苦悩と堅忍と勝利への見とおしを高ならせたであろう。その潮にともに流れてこそ、作家は、新しい文学の真の母胎である大衆生活のうちに自身の進・・・ 宮本百合子 「歌声よ、おこれ」
・・・だから、科学というとすぐ理智的ということでばかり受けとって科学を扱う人間がそこに献身してゆく情熱、よろこびと苦痛との堅忍、美しさへの感動が人間感情のどんなに高揚された姿であるのも若い女のひとのこころを直接にうたない場合が多い。このことは逆な・・・ 宮本百合子 「科学の常識のため」
・・・しかしキュリー夫人はあたりの動乱に断乎として耳をかさず、憂いと堅忍との輝いている独特な灰色の眼で、日光をあびたフランス平野の景色を眺めていた。ボルドーには避難して来た人々があふれていて、キュリー夫人では重くて運びきれない百万フランの価格を持・・・ 宮本百合子 「キュリー夫人」
・・・もしキュリー夫妻の艱難と堅忍と努力と成功の物語がここまでで終っていたとしたら、この人々の生涯は、成程立派でもあり業蹟もあがっているが、謂わば平凡な一つの立志伝にすぎなかったと思われます。 成功し業蹟をたてた人の真の価値は寧世間にその価値・・・ 宮本百合子 「キュリー夫人の命の焔」
・・・私は、互の仕事と生活とが困難になってから、稲子さんというひとの非常な粘りづよさ、堅忍、正義感、周密さなどを益々高く評価し、生涯の友と信ずるようになっていたのだが、この何でもなく話されたことは寧ろ私を愕かせ、又新たな稲子さんの一面に打たれた。・・・ 宮本百合子 「窪川稲子のこと」
・・・五十七歳の時のケーテの自画像には、しずかな老婦人の顔立のうちに、刻苦堅忍の表情と憐憫の表情と、何かを待ちかねているような思いが湛えられている。 晩年のケーテの作品のあるものには、シムボリックな手法がよみがえっている。が、そこには初期の作・・・ 宮本百合子 「ケーテ・コルヴィッツの画業」
・・・今日の社会生活全般の不安定な錯雑したいきさつの間に、愛の堅忍と誠実とが試みにかけられつつある。親の権威よりはるかに強く猛々しい社会不合理に面しているのである。 その国の民主主義が社会主義の段階まで到達しているところ、そして、非条理なナチ・・・ 宮本百合子 「現代の主題」
・・・自分たちの不幸を底まで理解して、それを堅忍し、克服してゆく気魄がなければ、幸福感を味うことができにくい時代に来ているのである。破壊の行われているときにもやはり人類の幸福のために続けられている努力があって、それはどこにどんなに行われているかと・・・ 宮本百合子 「幸福の感覚」
出典:青空文庫