・・・が、この記事は必ずしも確実な報道ではなかったらしい。現にまた同じ新聞の記者はやはり午後八時前後、黄塵を沾した雨の中に帽子をかぶらぬ男が一人、石人石馬の列をなした十三陵の大道を走って行ったことを報じている。すると半三郎は××胡同の社宅の玄関を・・・ 芥川竜之介 「馬の脚」
・・・新聞を見れば同盟罷工や婦人運動の報道が出ている。――そう云う今日、この大都会の一隅でポオやホフマンの小説にでもありそうな、気味の悪い事件が起ったと云う事は、いくら私が事実だと申した所で、御信じになれないのは御尤もです。が、その東京の町々の燈・・・ 芥川竜之介 「妖婆」
八月十七日私は自分の農場の小作人に集会所に集まってもらい、左の告別の言葉を述べた。これはいわば私の私事ではあるけれども、その当時の新聞紙が、それについて多少の報道を公けにしたのであるが、また聞きのことでもあるから全く誤・・・ 有島武郎 「小作人への告別」
・・・ と両つ提の――もうこの頃では、山の爺が喫む煙草がバットで差支えないのだけれど、事実を報道する――根附の処を、独鈷のように振りながら、煙管を手弄りつつ、ぶらりと降りたが、股引の足拵えだし、腰達者に、ずかずか……と、もう寄った。「いや・・・ 泉鏡花 「燈明之巻」
・・・続いて新聞の三面子は仔細ありげな報道を伝えた。この夜、猿芝居が終って賓客が散じた頃、鹿鳴館の方角から若い美くしい洋装の貴夫人が帽子も被らず靴も穿かず、髪をオドロと振乱した半狂乱の体でバタバタと駈けて来て、折から日比谷の原の端れに客待ちしてい・・・ 内田魯庵 「四十年前」
一 根本的用意とは何か 一概に文章といっても、その目的を異にするところから、幾多の種類を数えることが出来る。実用のための文書、書簡、報道記事等も文章であれば、自己の満足を主とする紀行文、抒情叙景文、論文等も文章である。 こゝ・・・ 小川未明 「文章を作る人々の根本用意」
・・・もし、そうした家庭があったなら、その家庭の事情は、都会の新聞によって報道せられないことはなかろうと思います。 新聞は、社会の耳目を以て任じ、また、社会の人々は、そうした人達を幾分なりと救うことも善事と心得ているからです。まことにそうある・・・ 小川未明 「街を行くまゝに感ず」
・・・四年も外地にいたが、武田さんは少しも報道班員の臭みを身につけていなかった。帰途大阪へ立ち寄って、盛んに冗談口を利いてキャッキャッ笑っている武田さんは、戦争前の武田さんそのままであった。悪童帰省すという感じであった。何か珍妙なデマを飛ばしたく・・・ 織田作之助 「四月馬鹿」
・・・見ると或地方で小学校新築落成式を挙げし当日、廊の欄が倒れて四五十人の児童庭に顛落し重傷者二名、軽傷者三十名との珍事の報道である。「大変ですね。どうしたと言うんでしょう?」「だから私が言わんことじゃあない。その通りだ、安普請をするとそ・・・ 国木田独歩 「酒中日記」
・・・むしろ、これらの作家の小説と並んでその傍に、二、三行で報道されている、××の仕打ちに憤慨して銃を自分の口にあてゝ足で引金を踏んで自殺したという兵卒の記事の方が、はるかに深い暗示に富んでいる。 ただ、ブルジョアジーが、その最初の戦争からし・・・ 黒島伝治 「明治の戦争文学」
出典:青空文庫