・・・摩耶われを見棄てざりしと、いそいそと立ったりし、肩に手をかけ、下に居らせて、女は前に立塞がりぬ。やがて近づく渠等の眼より、うたてきわれをば庇いしなりけり。 熊笹のびて、薄の穂、影さすばかり生いたれば、ここに人ありと知らざる状にて、道を折・・・ 泉鏡花 「清心庵」
・・・君のような神経の少し遅鈍の方なら知らないこと――失敬失敬――僕はもう呼吸が塞がりそうになって、目がぐらぐらして来た。これが三十分も続いたら僕は気絶したろう。ところが間もなく、旦那はうめえなアと耳元で大声に叫んだ奴がある。 びっくりして振・・・ 国木田独歩 「郊外」
・・・が重くなって目が塞がりそうになる。その度にびっくりして目を開く。目を開いてはこの気味の悪い部屋中を見廻す。どこからか差す明りが、丁度波の上を鴎が走るように、床の上に影を落す。 突然さっき自分の這入って来た戸がぎいと鳴ったので、フィンクは・・・ 著:リルケライネル・マリア 訳:森鴎外 「白」
出典:青空文庫