・・・そらええ按配や」 と、松本は連れの女にぐっと体をもたせかけて、「立話もなんとやらや、どや、一緒に行かへんか。いま珈琲のみに行こ言うて出て来たところやねん」「へえ、でも」 坂田は即座に応じ切れなかった。夕方から立って、十時を過・・・ 織田作之助 「雪の夜」
・・・此塩梅では死骸の側を離れたくも、もう離れられんも知れぬ。やがておれも是になって、肩を比べて臥ていようが、お互に胸悪くも思はなくなるのであろう。 兎に角水は十分に飲むべし。一日に三度飲もう、朝と昼と晩とにな。 日の出だ! 大きく盆・・・ 著:ガールシンフセヴォロド・ミハイロヴィチ 訳:二葉亭四迷 「四日間」
・・・かかる間に卓上の按排備わりて人々またその席につくや、童子が注ぎめぐる麦酒の泡いまだ消えざるを一斉に挙げて二郎が前途を祝しぬ。儀式はこれにて終わり倶楽部の血はこれより沸かんとす。この時いずこともなく遠雷のとどろくごとき音す、人々顔と顔見合わす・・・ 国木田独歩 「おとずれ」
・・・「どちらかと言えば丸顔の色のくっきり白い、肩つきの按排は西洋婦人のように肉附が佳くってしかもなだらかで、眼は少し眠むいような風の、パチリとはしないが物思に沈んでるという気味があるこの眼に愛嬌を含めて凝然と睇視られるなら大概の鉄腸漢も軟化・・・ 国木田独歩 「牛肉と馬鈴薯」
・・・男なのだから、義妹や義弟たちから、その家の事に就いて何の相談にもあずからぬのは、実に当然の事であって、また私にしても、そんな甲府の家の財産やら何やらには、さっぱり興味も持てないので、そこはお互いにいい按配の事であった。しかし、二十六だったか・・・ 太宰治 「薄明」
・・・あくどい蒼蠅さがわりに少なくて軽快な俳諧といったようなものが塩梅されているようである。例えばドライヴの途上に出て来るハイカラな杣や杭打ちの夫婦のスケッチなどがそれである。「野羊の居る風景」などもそれである。ただ残念に思うのは、外国の多くの実・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(5[#「5」はローマ数字、1-13-25])」
・・・そろそろ回しながらまずこの団塊の重心がちょうど回転軸の上に来るように塩梅するらしい。それが、多年の熟練の結果であろうが、はじめひょいと載せただけでもう第一近似的にはちゃんと正しい位置におかれている、それで、あとはただこの団塊をしっかり台板に・・・ 寺田寅彦 「空想日録」
・・・が、困った事には父上の外は揃いも揃うた船嫌いで海を見るともう頭痛がすると云う塩梅で。何も急く旅でもなしいっそ人力で五十三次も面白かろうと、トウトウそれと極ってからかれこれ一月の果を車の上、両親の膝の上にかわるがわる載せられて面白いやら可笑し・・・ 寺田寅彦 「車」
・・・私見によるとおそらくこれは四拍子の音楽的拍節に語句を配しつつ語句と語句との間に適当な休止を塩梅する際に自然にできあがった口調から発生したものではないかと想像されるのであるが、これについては別の機会に詳説することとして、ここではともかくそうし・・・ 寺田寅彦 「俳句の精神」
・・・いい塩梅に平場の前の方を融通してくれたんですよ」「そう。お芳さんも久しく見ないが、どこにいる」 お絹は指ざしして教えてくれたけれど、疎い道太の目には入りかねた。 肌でもぬぎたいほど蒸し暑い日だったので、冬の衣裳をつけた役者はみな・・・ 徳田秋声 「挿話」
出典:青空文庫