・・・ 処を沖へ出て一つ暴風雨と来るか、がちゃめちゃの真暗やみで、浪だか滝だか分らねえ、真水と塩水をちゃんぽんにがぶりと遣っちゃ、あみの塩からをぺろぺろとお茶の子で、鼻唄を唄うんだい、誰が沖へ出てベソなんか。」 と肩を怒らして大手を振った・・・ 泉鏡花 「海異記」
・・・環境には何ら科学的の刺戟はなかったが、塩水に卵の浮く話を聞いて喜んで実験したり、機関車二台つけた汽車を見てその効能を考えたりした。伯母に貰った本で火薬の製法を知り、薬屋でその材料を求めて製造にかかっているところを見付かって没収された話もある・・・ 寺田寅彦 「レーリー卿(Lord Rayleigh)」
・・・ 若し、彼女が、長い航海をしようとでも考えるなら、終いには、船員たちは塩水を飲まなければならない。 何故かって、タンクと海水との間の、彼女のボットムは、動脈硬化症にかかった患者のように、海水が飲料水の部分に浸透して来るからだった。だ・・・ 葉山嘉樹 「労働者の居ない船」
・・・一千九百二十六年三月廿〔一字分空白〕日、塩水撰をやった。うちのが済んでから楢戸のもやった。本にある通りの比重でやったら亀の尾は半分も残らなかった。去年の旱害はいちばんよかった所でもこんな工合だったのだ。けれども陸・・・ 宮沢賢治 「或る農学生の日誌」
・・・いま川の流れているとこに、そっくり塩水が寄せたり引いたりもしていたのだ。このけものかね、これはボスといってね、おいおい、そこつるはしはよしたまえ。ていねいに鑿でやってくれたまえ。ボスといってね、いまの牛の先祖で、昔はたくさん居たさ。」「・・・ 宮沢賢治 「銀河鉄道の夜」
・・・タネリは辛い塩水の中でぼろぼろ涙をこぼしました。犬神はおかしそうに口をまげてにやにや笑ってまた云いました。「ちょうざめ、どうしたい。」するとごほごほいやなせきをする音がしてそれから「どうもきのこにあてられてね。」ととても苦しそうな声がしまし・・・ 宮沢賢治 「サガレンと八月」
出典:青空文庫