・・・それが破綻であるか、或いは互いに一層深まり落付き信じ合った愛の団欒か、互いの性格と運とによりましょが、いずれにせよ、行きつくところまで行きついてそこに新たな境地を開かせる本質が恋愛につきものなのです。 自然は、人間の恋愛を唯だ男性と・・・ 宮本百合子 「愛は神秘な修道場」
・・・何故与えられている生命の時間がもう短くなったとき、芸術家たちは其とは知らず一段と新しい境地の敷居に立った姿を示すのであろうか。〔一九四一年一月〕 宮本百合子 「旭川から」
・・・の心に翹望されていることは感じられる。しかも、社会の現実は進んでいて、往年の情熱詩人、与謝野晶子が「みだれ髪」に歌ったような恋愛の感情は、今日の若い人々の心には住み得ない。ましてや「万葉」の境地においておやである。中産階級の急速な貧困化、そ・・・ 宮本百合子 「新しい一夫一婦」
・・・ この死によって私は、殊に近来夫婦関係というような事に就いていろいろの事を考えて来ましたが、私共の機械的な日常生活の中に、こんな深遠な境地が係らわっていることか、と深く深く胸を撲たれました。そうして有島さんの最近の作物「二つの心」などを・・・ 宮本百合子 「有島さんの死について」
・・・作者としては一歩踏み出した作家的境地においてこの決心をしているのである。だが残念なことに、経済的な理由、肉体的な理由をひっくるめての複雑多岐な男との交渉をもその一部としてもちながら、女の全生活は立体的に成り立つものであるという理解を、作者は・・・ 宮本百合子 「「或る女」についてのノート」
・・・画の上で新境地を開拓するためにはまず内に新境地を開拓しなくてはならないのである。が、また他方では自然について学ぶということも一法であろう。すなわち情緒表現の道と並行して、純粋に写実に努力し、これまで閑却していたさまざまの自然の美を捕えるので・・・ 和辻哲郎 「院展日本画所感」
・・・今度の歌集で先生は、もののさびものの渋味はおのづからいたりつく時はじめて知らゆと歌っていられるが、そういう先生の境地が先生の歌を味わうものの心にもしみじみと伝わってくるように感ぜられる。それはまことに達人の域である。何事にも・・・ 和辻哲郎 「歌集『涌井』を読む」
・・・万民志を遂ぐるという理想的な境地に達するためには、どの階級も多少ずつは犠牲を払わなくてならぬ。しかし公平に言って、特権階級が特に多くの犠牲を払わなくては、万民志を遂ぐる境に達しがたいことも事実である。そうしてその犠牲を払うことが聖旨を奉戴し・・・ 和辻哲郎 「蝸牛の角」
・・・そういう境地においては実際に初茸は愛らしく、黄茸は品位があり、白茸は豊かであり、しめじは貴い。こういう価値の感じは仲間に教え込まれたのではなくして彼自身が体験したのである。彼は自らこの探求に没入することによって、教えられた価値を彼自身のなか・・・ 和辻哲郎 「茸狩り」
・・・宗教は予を制圧する権威でなかったがゆえに好んで近づいたが、しかし何らかの権威を感じなければならない境地までは決してはいって行かなかった。むしろそれを他の権威に対する反逆の道具に使ったに過ぎなかった。ついには生活そのものの権威に対してまでも反・・・ 和辻哲郎 「『偶像再興』序言」
出典:青空文庫