・・・このゆえに自分はひとり天主閣にとどまらず松江の市内に散在する多くの神社と梵刹とを愛するとともに(ことに月照寺における松平家の廟所新たな建築物の増加をもけっして忌憚しようとは思っていない。不幸にして自分は城山の公園に建てられた光栄ある興雲閣に・・・ 芥川竜之介 「松江印象記」
・・・財産とともに道徳心をも失った貧民と売淫婦との急激なる増加は何を語るか。はたまた今日我邦において、その法律の規定している罪人の数が驚くべき勢いをもって増してきた結果、ついにみすみすその国法の適用を一部において中止せねばならなくなっている事実(・・・ 石川啄木 「時代閉塞の現状」
・・・規定が一つ減じることは因果律が許さないが、一つ増加することは差支えない。しからばかかる規定者はどこからくるか。カントは人間の英知的性格の中にその源を求めた。しかし自由を現象界から駆逐して英知的の事柄としたのでは、一般にカントの二元論となり終・・・ 倉田百三 「学生と教養」
・・・「ま、五項症に相当するとして……増加がついて二百二十円か。」 足のさきから腰まで樋のような副木にからみつけられている、多分その片脚は切断しなければなるまい、それが福地だった。大腿の貫通銃創だ。「看護長殿、大西、なんぼ貰えます?」・・・ 黒島伝治 「氷河」
・・・実際鉄道庁で、この線路の列車の往復を一時増加しようかと評議をした位である。無論急行で、一等車ばかりを聯結しようと云うのであった。 その会議の結果はこうである。親族一同はポルジイに二つの道を示して、そのどれかを行わなくてはならないことにし・・・ 著:ダビットヤーコプ・ユリウス 訳:森鴎外 「世界漫遊」
・・・それだのに体量だけはわずかの間に莫大な増加を見せて、今では白の母鳥のほうがかえってひなの中の大柄なのよりはずっと小さく見えるくらいであった。一方で例のドンファンの雄鳥はと見るとなんとなく羽色がやつれたようで、首のまわりのあの美しい黒い輪も所・・・ 寺田寅彦 「あひると猿」
・・・ 視覚的映画に聴覚的な音響を付加することは本質的に異なる別の次元を新たに増加することであるが、色彩の付加は単に視覚的なものの属性の補充に過ぎない。それだから、たとえば色彩再現の科学的技術がいかに発達したとしても、それがために発声映画がも・・・ 寺田寅彦 「映画芸術」
・・・しかしこういう流動に、さらに貨物車の影がレールの上を走るところなどを重出して、結局何かしら莫大な運動量を持ったある物が加速的にその運動量を増加しつつ、あの茫漠たるアジア大陸の荒野の上を次第に南に向かって進んでいるという感じがかなりまで強く打・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・たとえ日進月歩の新知識を統括する方則や原理の数はそれほど増さないとしても、これによって概括せらるべき事実の数は次第に増加して来るばかりである。従って勢い物理学の中でもだんだんに専門の数が増加しその範囲が狭くなる。この勢いで進んで行けば物理学・・・ 寺田寅彦 「科学上における権威の価値と弊害」
・・・何とならば、学術を真剣に研究する研究者の数が増加すれば、そのうちで相当立派な成績をあげて学位授与に十分な資格を具備する人の数も増加するのは数理的に当然のことだからである。多数の研究者のうちで、何かしら一つの仕事に成功して学位を得る人の数が研・・・ 寺田寅彦 「学位について」
出典:青空文庫