・・・これを折り合わせるためには社会の習慣を変えるか、肉体の感覚美を棄てるか、どっちかにしなければなりません、が両方共強情だから、収まりがつきにくいところを、無理に収まりをつけて、頓珍漢な一種の約束を作りました。その約束はこうであります。「肉体の・・・ 夏目漱石 「文芸の哲学的基礎」
・・・「カルボナード火山島が、いま爆発したら、この気候を変えるくらいの炭酸ガスを噴くでしょうか。」「それは僕も計算した。あれがいま爆発すれば、ガスはすぐ大循環の上層の風にまじって地球ぜんたいを包むだろう。そして下層の空気や地表からの熱の放・・・ 宮沢賢治 「グスコーブドリの伝記」
・・・そこで、名前を変えるには、改名の披露というものをしないといけない。いいか。それはな、首へ市蔵と書いたふだをぶらさげて、私は以来市蔵と申しますと、口上を云って、みんなの所をおじぎしてまわるのだ。」「そんなことはとても出来ません。」「い・・・ 宮沢賢治 「よだかの星」
・・・自分のこれまでの人生なり社会なりの見かたを変えるなにかが加えられた、と感じる瞬間が必ずあったろう。戦争については周知のような態度であった尾崎士郎のような作家でさえ、あわただしい雑記のうちに、印象が深められずに逸走してしまう作家として苦しい瞬・・・ 宮本百合子 「歌声よ、おこれ」
・・・作家が現実に居直ることと常識に居坐ることとの差は必ず読者の在りようを作家にとって内在的に変えるばかりでなく、照りかえしてゆくものと思う。〔一九四〇年五月〕 宮本百合子 「今日の読者の性格」
・・・「かえるもいいが、あんまり変えると何とか悪いことがおこりやしないかと思うんだけど…………」「それもそうだと思ってネ、今迷って居るんですよ」「まさか御前だもの、くだらないもんの手にかかって手をやかれるような事はしまいがね、とにかく・・・ 宮本百合子 「砂丘」
・・・ 彼は頭を傾け変えるとボナパルトに云った。「閣下、これは東洋の墨をお用いにならなければなりません」 この時から、ナポレオンの腹の上には、東洋の墨が田虫の輪郭に従って、黒々と大きな地図を描き出した。しかし、ナポレオンの田虫は西班牙・・・ 横光利一 「ナポレオンと田虫」
・・・が、彼が戦えば戦うほど、彼が医者を変えれば変えるほど、医者の死の宣告は事実と一緒に明克の度を加えた。彼は萎れてしまった。彼は疲れてしまった。彼は手を放したまま呆然たる蔵のように、虚無の中へ坐り込んだ。そうして、今は、二人は二人を引き裂く死の・・・ 横光利一 「花園の思想」
・・・先輩の手法を模倣して年々その画風を変えるごとき不見識に陥らず、謙虚な自然の弟子として着実に努力せられんことを望む。 ――例外の一と二とに現われた二つの道が日本画を救い得るかどうか。それは未来にかかった興味ある問題である。・・・ 和辻哲郎 「院展日本画所感」
・・・世界史の大きい振り子は行き詰まるごとに運動の方向を逆に変えるが、しかしその運動の動因は変わらない。 それとともにもう一つ見落としてはならぬ変化は、社会組織の基礎として民衆の共同や協力を力説する思想が著しく栄えて来たことである。服従の代わ・・・ 和辻哲郎 「世界の変革と芸術」
出典:青空文庫