・・・の偶然に関係した店の主人の仕打ちうや、それに対する私のした事や考えた事なんかは、すべてがただ小さな愚かな、時代おくれの「虚栄心」の変種かもしれない。 しかしともかくも私はちょっと意外な事に出逢ったような気がしてならなかった。而してこうい・・・ 寺田寅彦 「ある日の経験」
・・・に押し広げてその上に紙をはり、その紙は日月の部分蝕のような形にして、手もとに近いほうの割り竹を透かした、そういうものが、少なくもわれわれの子供時代からの団扇の定義のようなもので、それ以外のものは言わば変種のようなものであった。こういう昔の型・・・ 寺田寅彦 「錯覚数題」
・・・故意と仕込むのは、植木に盆栽と云う変種を作って悦ぶ人間のわるい小細工としか思われない。世にも胸のわるいのは、欧州婦人がおもちゃにする、小さな、ひよわい、骸骨に手入れの届いた鞣皮を張りつけたような Pocket dog 或は Sleeve d・・・ 宮本百合子 「犬のはじまり」
・・・本年の一月頃から日本文学の動きは『文学界』を中心に、文学における科学的客観的評価の否定、合理的な世界観の拒否の声が一層高まり、昨今はこのグループによって変種の実証主義、信仰的体験への要求が提出されている。文化における極端な民族尊重の傾向と結・・・ 宮本百合子 「作家のみた科学者の文学的活動」
・・・そして社会がもっているこの封建の暗さのために、日本の文学上の重大なエポックであった自然主義もヒューマニズムもデカダニズムさえも、日本的な変種としてあらわれた。日本的な変種の現象は、自然主義の社会観を社会文学の思想と実践に発展させなかった。家・・・ 宮本百合子 「自我の足かせ」
・・・ドストイェフスキーがこんなに流布していることと、そのような商業出版の理由を考えようとしないで、読者はドストイェフスキーをよまされ、その日本的変種まで批判なしにうけとらされている。ジイドにしても、このことはいえる。これまで一部の人の手本として・・・ 宮本百合子 「はしがき(『文芸評論集』)」
・・・ 中央の文壇の関心というものも、ちがった地味での変種の速成栽培への興味めいたものであってはなるまいと思う。ジャーナリズムへ吸収される率でだけ、地方に分散する文学の創造力の意味が計られても悲しいことだと思う。文学の将来性への希望として真面・・・ 宮本百合子 「文学と地方性」
・・・いかにすれば珍しい変種ができるだろうかとか、いかにすれば予定の時日の間に注文通りの果実を結ぶだろうかとか、すべてがあまりに人工的である。 天を突こうとするような大きな願望は、いじけた根からは生まれるはずがない。 偉大なものに対する崇・・・ 和辻哲郎 「樹の根」
出典:青空文庫