・・・ とは言ったが、しかし、あのご様子では、今夜も外泊にきまっています。 マサ子はお勝手にあがって、それから三畳間へ行き、三畳間の窓縁に淋しそうに腰かけて外を眺め、「お母さま、マサ子のお豆に花が咲いているわ。」 と呟くのを聞いて・・・ 太宰治 「おさん」
・・・ 私には外泊の弱味がある。怒る事が出来なかった。「これは、マサ子のよ」 と七歳の長女は得意顔で、「お母さんと一緒に吉祥寺へ行って、買って来たのよ」「それは、よかったねえ」 と父は子供には、あいそを言い、それから母に向・・・ 太宰治 「家庭の幸福」
・・・どんなにおそくても、外泊さえなさらなかったら、私は平気なんだけど。 主人をお見送りしてから、目刺を焼いて簡単な昼食をすませて、それから園子をおんぶして駅へ買い物に出かけた。途中、亀井さんのお宅に立ち寄る。主人の田舎から林檎をたくさん送っ・・・ 太宰治 「十二月八日」
・・・それは外の女中がいろいろの口実を拵えて暇を貰うのに、お蝶は一晩も外泊をしないばかりでなく、昼間も休んだことがない。佐野さんが来るのを傍輩がかれこれ云っても、これも生帳面に素話をして帰るに極まっている。どんな約束をしているか、どう云う中か分か・・・ 森鴎外 「心中」
出典:青空文庫