・・・恋愛がそれに価いしないと云うのではなく、正反対に、本当の恋愛は人間一生の間に一遍めぐり会えるか会えないかのものであり、その外観では移ろい易く見える経過に深い自然の意志のようなものが感じられ、又よき恋愛をすることは容易な業ではないと感じている・・・ 宮本百合子 「愛は神秘な修道場」
・・・モスクワ市は外観もいちじるしく変化した。外の並木道をこした市の外廓には、新工場のポンド式ガラス屋根の反射とともに、新労働者住宅のさっぱりしたコンクリート壁が、若い街路樹のかなたに、赤い布をかぶった通行人を浮きあがらしている。 モスクワ河・・・ 宮本百合子 「子供・子供・子供のモスクワ」
・・・等の作品を示し、文芸復興はさながらブルジョア老大家の復興であるかの如き外観を呈した。当時にあっては、佐藤春夫は芸術の技法の面から日本文脈の研究について一つの見解を示していたが、それは今日の佐藤春夫が「もののあわれ」を云々する内容、傾向とはそ・・・ 宮本百合子 「今日の文学の鳥瞰図」
・・・ スモーリヌイの外観は快活である。そのように内部も清潔で、白い。極めてさっぱりしている。 三階の廊下へ入るところに、赤衛兵が番をしている。許可証を赤衛兵にわたした。婦人部金文字の札が出ている。戸がかたい。うんと力を入れて開けたら日本・・・ 宮本百合子 「スモーリヌイに翻る赤旗」
・・・現在米国でも、相当の知識階級の、青年男女は、殆ど滑稽な外観のレディファーストを決して誇ってはいないのです。 彼等はもう、実際人として尊敬するには塵ほどの価値もないような女が、只、風俗を利用し、婦人を冷遇する男子は、紳士として扱われないと・・・ 宮本百合子 「男女交際より家庭生活へ」
・・・或る芸術の中に外観がよく掴えられ、本当のように描かれている。「それでいい。しかも其では駄目だ。君達は生命の外観だけは捉える。けれども溢れ出る生命の過剰を現すことが出来ない。」バルザックが、以上のような規準に従って現実ととり組み、自身の文体を・・・ 宮本百合子 「バルザックに対する評価」
・・・彼等のインテリゲンツィア的理論づけ、組立ての外観が、当時に於て一過渡期にいたマクシム・ゴーリキイを一時搦め込んだのである。四十歳になり、世界の作家ゴーリキイになっていた彼は、この時、二十代の生一本さを失っていたとともに、知識で装った敵を破る・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの発展の特質」
・・・「人生は結局外観はどうあろうとも哀れである。」「それでも私は自分を投げ出すことができない! して見ると生は一つの力でなければならない。何物かでなければならぬ。私たちには永久というものがないから、人生は何物でもないという人がある。ああ! 愚か・・・ 宮本百合子 「マリア・バシュキルツェフの日記」
・・・手に取られない、微かなような外観のものではあるが、底にはかのようにが儼乎として存立している。人間は飽くまでも義務があるかのように行わなくてはならない。僕はそう行って行く積りだ。人間が猿から出来たと云うのは、あれは事実問題で、事実として証明し・・・ 森鴎外 「かのように」
・・・そこに彼らの仕事が何らか社会的の意義を持つような外観を呈してくるのである。で、彼らは乗り気になって、自分がある事を言いたいからではなく読者がある事を聞きたがっているゆえに、その事をおもしろおかしくしゃべり散らす。純然たる幇間である。またある・・・ 和辻哲郎 「創作の心理について」
出典:青空文庫