長谷川時雨さんの御生涯を思うと、私たちは、やっぱり何よりも女性の多難な一生ということを考えずには居られなくて、最後までその道の上に居られた姿を、深く悼む心持です。 明治の濃い匂りの裡に成長して、大正、昭和と今日までの激・・・ 宮本百合子 「積極な一生」
昨今の複雑で又変動の激しい世相は、一方に真面目な歴史研究への関心を刺戟しているが、若い婦人たちの間にも、益々多岐多難な女性の日常生活についての自省とともに、人類の長い歴史の消長のなかで女はどのような社会的歩きかたをして来た・・・ 宮本百合子 「先駆的な古典として」
・・・ 多難な運動は、バラの道によって人類を解放させないのである。前衛としての知識人の負う艱苦、犠牲は運動の退潮期には猛烈であるから、一般的敗北の跡の検討ということは、冷静に、確乎性をもって歴史的な眼から行われ難い。船が難破しかかったとき、最・・・ 宮本百合子 「全体主義への吟味」
・・・ 山田さんは、『種蒔く人』時代から日本のプロレタリア文学運動に参加して、本年二月ナルプ解散前後の多難な時をも経、略十年間、波瀾に富んだ闘争の道を歩いて来た。 私が山田さんを知ったのは一九三〇年の暮旧日本プロレタリア作家同盟の活動に参・・・ 宮本百合子 「『地上に待つもの』に寄せて」
・・・一八八三年、六十五歳の時脊髄癌を病ってパリで死ぬまで、ツルゲーネフは有名な農奴解放時代の前後、略三十年に亙るロシアの多難多彩な社会生活と歴史の推進力によって生み出される先進的な男女のタイプとを、世界的に知られている小説「猟人日記」、「ルージ・・・ 宮本百合子 「ツルゲーネフの生きかた」
・・・ 日本の現実は多難であり、その多難の性質は、これまでの生涯において芸術家藤村の経験したどの時代にもなかったものである。アルゼンチンへ行き、そしてかえり、今日の苦しい世界を通って来た老藤村が、果してどのように洗われた感覚をもって、日本の自・・・ 宮本百合子 「藤村の文学にうつる自然」
・・・ 又、俳優の演技を小さくしていることと、舞台の狭く小さいこととは、切り離せない関係にあって、新協がこの困難な問題を克服して行かなければならない過程は実に複雑多難であります。芸を愛するものの関心は、ここまで実際問題としてはひろがって来る。・・・ 宮本百合子 「一つの感想」
・・・私としてはその一つの道が文学にあるわけだけれども、今日の世界が面している多難さは、私たちの日常生活のごく細かいところまでその波をうたせているから、現実の様々の錯綜した条件から、そのような願望も実現には少なからぬ困難を経ている。 お喋りの・・・ 宮本百合子 「フェア・プレイの悲喜」
・・・過去の歴史の絵巻が示しているとおり文明があるところまで来てその文明の故にかえって文化を低めるようになる場合、文化の創造力というものは、常にもっとも多難な道を辿るものである。そして、その過程で婦人が負うてゆく文化性というものは、その国の社会の・・・ 宮本百合子 「婦人の文化的な創造力」
・・・しかし、一人の人としてのうまみというようなものが、多難多岐な客観的局面をどう展開させ得るだろうか。二つのことは常に必ずしも一致し得ないことを、過去の歴史も多くの実例で語っている。 桜内蔵相の答えかたには、首相とまるでちがう一種の話術のよ・・・ 宮本百合子 「待呆け議会風景」
出典:青空文庫