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・・・ 三 が、拍子抜けのした事は夥多しい。 ストンと溝へ落ちたような心持ちで、電車を下りると、大粒ではないが、引包むように細かく降懸る雨を、中折で弾く精もない。 鼠の鍔をぐったりとしながら、我慢に、吾妻橋の方・・・
泉鏡花
「妖術」
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・・・楼下は陋しき一室にして、楼上には夥多の美室あり。地位職分を殊にする者が、この卑陋なる一室に雑居して苦々しき思をなさんより、高く楼に昇りてその室を分ち、おのおの当務の事を務むるはまた美ならずや。室を異にするも、家を異にするに非ず。居所高ければ・・・
福沢諭吉
「学者安心論」