・・・もし書いて頂ければ、大いに新聞に広告しますよ。「堀川氏の筆に成れる、哀婉極りなき恋愛小説」とか何とか広告しますよ。 保吉 「哀婉極りなき」? しかし僕の小説は「恋愛は至上なり」と云うのですよ。 主筆 すると恋愛の讃美ですね。それはい・・・ 芥川竜之介 「或恋愛小説」
・・・とにそう云う句なども製造した。 当時又可笑しかったことには赤木と俳談を闘わせた次手に、うっかり蛇笏を賞讃したら、赤木は透かさず「君と雖も畢に蛇笏を認めたかね」と大いに僕を冷笑した。僕は「常談云っちゃいけない。僕をして過たしめたものは実は・・・ 芥川竜之介 「飯田蛇笏」
・・・君は今それを始めたばかりで大いに満足してるね。僕もそうに違いない。やっぱり初めのうちは日に五度も食事をするかも知れない。しかし君はそのうちに飽きてしまっておっくうになるよ。そうしておれん処へ来て、また引越しの披露をするよ。その時おれは、「と・・・ 石川啄木 「一利己主義者と友人との対話」
・・・――おかげで腹あんばいも至ってよくなったし、……午飯を抜いたから、晩には入り合せにかつ食い、大いに飲むとするんだが、いまね、伊作さんが渋苦い顔をして池を睨んで行きました。どうも、鯉のふとり工合を鑑定したものらしい……きっと今晩の御馳走だと思・・・ 泉鏡花 「眉かくしの霊」
・・・よし河の水が増して来たところで、どうにか凌ぎのつかぬ事は無かろうなどと考えつつ、懊悩の頭も大いに軽くなった。 平和に渇した頭は、とうてい安んずべからざるところにも、強いて安居せんとするものである。 二 大雨が・・・ 伊藤左千夫 「水害雑録」
・・・なあに起きりゃなおると、省作は自分で自分をしかるようにひとり言いって、大いに奮発して起きようとするが起きられない。またしばらく額を枕へ当てたまま打つ伏せになってもがいている。 全く省作は非常にくたぶれているのだ。昨日の稲刈りでは、女たち・・・ 伊藤左千夫 「隣の嫁」
・・・と古川先生大いに満足して一尾の鰻を十倍旨く舌打して賞翫したという逸事がある。恩師の食道楽に感化された乎、将た天禀の食癖であった乎、二葉亭は食通ではなかったが食物の穿議がかなり厳ましかった。或る時一緒に散策して某々知人を番町に尋ねた帰るさに靖・・・ 内田魯庵 「二葉亭余談」
・・・たとい事業は小さくても、これらのすべての反対に打ち勝つことによって、それで後世の人が私によって大いに利益を得るにいたるのである。種々の不都合、種々の反対に打ち勝つことが、われわれの大事業ではないかと思う。それゆえにヤコブのように、われわれの・・・ 内村鑑三 「後世への最大遺物」
・・・私が今日ここにお話しいたしましたデンマークとダルガスとにかんする事柄は大いに軽佻浮薄の経世家を警むべきであります。 内村鑑三 「デンマルク国の話」
・・・若者は、大いにはしゃいで、このあいだもらって、秘蔵していた指輪を、その娘に与え、指にはめてやりました。そばでこれを見たときは、いかに、おとなしい娘でも、さすがにそこにいたたまらず、胸を裂かれるような気持ちがしたのです。 遠い水平線は、黒・・・ 小川未明 「海のまぼろし」
出典:青空文庫