・・・但しどちらも大してはわからざる如し。 十四、どこか若々しき所ある事。 十五、皮肉や揚足取りを云わぬ事。 十六、手紙原稿すべて字のわかり好き事。 十七、陸海軍の術語に明き事。少年時代軍人になる志望ありし由。 十八、正直なる・・・ 芥川竜之介 「彼の長所十八」
・・・大慈大悲の仏たちである。大して御立腹もあるまいけれども、作がいいだけに、瞬もしたまいそうで、さぞお鬱陶しかろうと思う。 俥は寂然とした夏草塚の傍に、小さく見えて待っていた。まだ葉ばかりの菖蒲杜若が隈々に自然と伸びて、荒れたこの広い境内は・・・ 泉鏡花 「七宝の柱」
・・・それが予備軍のくり出される時にも居残りになったんで、自分は上官に信用がないもんやさかいこうなんのやて、急にやけになり、常は大して飲まん酒を無茶苦茶に飲んだやろ、赤うなって僕のうちへやって来たことがある。僕などは、『召集されないかて心配もなく・・・ 岩野泡鳴 「戦話」
・・・下駄の台を拵えるのが仕事だと聴いてはいるが、それも大して骨折るのではあるまい。初対面の挨拶も出来かねたようなありさまで、ただ窮屈そうに坐って、申しわけの膝ッこを並べ、尻は少しも落ちついていない様子だ。「お父さんの風ッたら、ありゃアしない・・・ 岩野泡鳴 「耽溺」
・・・「その代り、大して悪くもならねえんだろう」「ええ」と頷く。「そういうのはどうしても直りが遅いわけさね。新さんもじれッたかろうが、お光さんも大抵じゃあるめえ」「そりゃ随分ね何も病人の言うことを一々気にかけるじゃないけど、こっち・・・ 小栗風葉 「深川女房」
・・・京都弁はまるで美術工芸品のように美しいが、私にとっては大して魅力がない所以だ。 京都弁は誰が書いても同じ紋切型だと言ったが、しかし、大阪弁も下手な作家や、大阪弁を余り知らない作家が書くと、やはり同じ紋切型になってしまって、うんざりさ・・・ 織田作之助 「大阪の可能性」
・・・それでも根が陽気好きだけに大して苦にもならず身をいれて勤めていると、客が、芸者よりましや。やはり悲しかった。本当の年を聞けば吃驚するほどの大年増の朋輩が、おひらきの前に急に祝儀を当てこんで若い女めいた身振りをするのも、同じヤトナであってみれ・・・ 織田作之助 「夫婦善哉」
・・・ 酒の上の管ではないが、夫婦というものは大して難有いものでは無い。別してお政なんぞ、あれは升屋の老人がくれたので、くれたから貰ったので、貰ったから子が出来たのだ。 母もそうだ、自分を生んだから自分の母だ、母だから自分を育てたのだ。そ・・・ 国木田独歩 「酒中日記」
・・・ぼくはいま、ある女の子の家に毎晩のように遊びに行っては、無駄話をして一時頃帰ってきます。大して惚れていないのに、せんだって、真面目に求婚して、承諾されました。その帰り可笑しく、噴き出している最中、――いや、どんな気持だったかわかりません。ぼ・・・ 太宰治 「虚構の春」
・・・従って私はもしも歌人が自分の顔を気にしてそれを色々に変えようとするような事があるとすれば、それは大して努力するだけの意義のある事ではないように思う。 それで私はすべての歌人に望むように宇都野さんの場合にも、どうかあまりに頭のいい自己批評・・・ 寺田寅彦 「宇都野さんの歌」
出典:青空文庫